第39章


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「けっこーでっかかったねー!トバリしゅーへんがしんげんちだってー」
 治まって数秒後、二階でテレビを見ていたムウマージが天井をすり抜けて逆さまにひょっこりと顔を出し、
番組の途中で流れたのであろう速報を伝える。
 ミミロップはぼろぼろと涙を溢れさせ、耳の先で顔を覆ってその場に泣き崩れた。
「大丈夫、大丈夫ですよ。トバリは海を挟んでいるとはいえハードマウンテンに近い場所ですし、近くで地震くらいあっても不思議じゃありません。
あの悪運の塊のようなピカチュウさんがちょっとやそっとでどうにかなるわけ無いって、ミミロップさんもご自分で言っていたじゃないですか。
妙に不安なのは、きっと心配しすぎて疲れているからですよ。今日はもう休みましょう、ね?」
 自身にも言い聞かせるように、ロズレイドは励ましの言葉をかけた。 

 ・

 真っ暗闇。音も無く、温度も無く、肌に触るものも、もう何も無い。
感じられるものは、既に殆どが溶けるように散って無くなってしまった。残るのは虚空に沈む、浮かぶ、金色の腕輪。
それに微かにこびり付いて残っている意識。それが、それだけが己だ。
 己は何だったのか。たった一つはっきりと思い描けるのは、周りを白い毛並みに覆われた黒い顔。
これが己だったのだろうか。いや、違う気がする。恐らく、己がまだはっきりと己だった時、大切だったものだ。
きっと己は最期にこのものを守ったのだ。思い描いた時に僅かに感ずる安心感、充足感がそれを伝える。
 何も未練は残っていない。あってももう思い出せぬだけかもしれんが、もう、いい――。
『おいおい、どんな新入りが来たのかと思ったら、一体どうして君がこんな奥底に?』
 消えゆく己の意識に、別の意識が触れた。

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