第43章


[86]


 彼女と初めて出会った森の焼け跡まで来て、俺はモンスターボールを取り出して彼女を解き放った。
彼女は暫し目をパチパチさせてから、こちらへと振り向いた。
<ううん……ごめんなさい。やっぱり、このモンスターボールには中々慣れないわ。
出入りの時の光にびっくりしちゃって>
”一度慣れてしまえば案外居心地は悪くないものなんだがな。
だが、もうこれからはそんな大変な思いをすることも必要もあるまい”
 モンスターボールの光に未だに戸惑うと気恥ずかしそうにする彼女に向かって、
俺はなるべく平静に感情を押し殺して言った。
 途端に俺と彼女はしんと黙って、暫し徒然と視線を宙に泳がせた。
別れがもうすぐ其処まで迫っている。それは当然の事なのに。
彼女が村に帰ってしまう。それは喜ぶべきことなのに、何故だか俺は心の底から喜べないでいた。
<……あの、少し一緒に歩きませんか。村まではまだ距離があるので>
 村までまだ距離があるから少し一緒に歩かないか、沈黙を破って彼女はそう俺に切り出した。
俺は”ああ”と簡潔に了承し、並んで一歩一歩を惜しむように歩き出した。

 道すがら彼女は取り留めのない話を続け、俺はそれにただ耳を傾けて頷いていた。
本当は俺にももっと話したいことがある筈なのに胸中はもやもやとするばかりで上手く纏まらず、
何も喋る事は出来なかった。この時ばかりは、まるで高速スピンするカポエラーみたいに
無駄に口の回るスカーの奴が羨ましく感じた。あいつであればこのもやもやを巧みに凝り固め、
気の利いた意匠の一つでもして取り出せるんだろうか。己の不甲斐無さに、ふうと溜息が一つ出た。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.