第43章


[82]


『あの野郎、無理して俺達なんかを庇う様な真似しやがってよ。馬鹿だぜ……何か、
他にまだ方法はあった筈だ。誰もくたばらねえで済むよう方法がよぉ……』
 マルノームは屋内を件の”目的”を探っている時に、潜んでいた敵の手により、
不意を打って手投げ弾のように投げ込まれた自爆寸前のビリリダマの爆発から俺達を庇った。
狭い突き当たり、ビリリダマを爆発する前に始末することも、蹴り返すような間も無く、
少しでも被害を和らげようと、今にも破裂しようと膨張して振るえる丸い体を、
近くにいたマルノームは咄嗟に飲み込んで――……勇敢な最後だった。
 無念そうに口元を歪め、拳を振るわせるスカーの姿を見ていて、
『死を悼む』そんな語句が俺の中にふって湧いた。そして、部隊の誰かが先に逝く度に、
己の胸の片隅に抱いていた虚脱感、空虚感のようなもので空いた隙間に、
ぴたりと音を立てて嵌まり込んだような気がした。
 何事も割り切って冷徹を努めていた俺が、他者の死を嘆き、悲しんでいた。
それは驚くべき、怖れるべき変化だった。ならば、それなら、今まで俺がやってきた事は……?
俺は途端にぐっと喉を爪で押し込まれたように息が詰まり、血の気が引くような気がして、
その自問の答えが出る前に即座にそんな思いを振り払った。

 しかし、心に楔の如く打ち込まれた変化は、今まで割り切ったと思い込んでいたもの達の
”余り”を片隅に寄せ集めて封じていた壁に、小さくだが確実に穴を穿っていた。
どんな頑丈な堤防であろうと少しでも穴が開いてしまえば、そこから決壊は始まるのさ。
 ――罪を認識した時、罰は、裁きは遠からず訪れる。音も声も無くとも必ずや。

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