第43章


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『なんだよ、なんだよ。まぁた、なぁんにも食わねーでそうやってんのかい、シスターちゃんよぉ』
 あれはマルノームがやられた時だったか、ほろ酔い加減のスカーの奴が、
祈る彼女のもとへとやってきた。
『ヘッへ、あの食い意地の張った阿呆のことだ。地獄だか冥府だかに落とされようと、
鬼やら悪魔やら亡者共を片っ端から味見して存分に楽しんでやがるさぁ!
そんなことより一緒に飲もーぜ、シスターちゃん。酌してくれよぉ。ネズ公も来いよ!』
 スカーはニンマリと笑い、兵士達からくすねてきた酒瓶を片手にちゃぽちゃぽと揺らして誘った。
 彼女は無言で首を横に振るい、黙々と祈り続けた。俺は嘆息を吐き、”後にしろ”と窘めた。
『ちぇっ、ノリわりぃなぁ。そんな奴に……俺達に、ご丁寧に祈りを捧げてくれる必要なんざねぇ。
寧ろ、出来損ないのろくでなしがまた一匹この世から消えて清々したってぇ、祝杯をあげにゃなんねえくらいだ』
 瓶をクイッと呷り、酒気にまみれた息と共にスカーは言葉を吐いた。
”やめろ、スカー”
 声を荒げる俺を、ヘッとスカーは鼻で笑った。
『気取んなよ、ネズミぃ。俺達ゃ出来損ないはどーせ最初から、無残にくたばる為だけに生まれて来たんだろが。
ついでに何人何匹何羽何頭の老若男女を道連れにしてからな。出来る事は周りに害を振り撒き続けることだけ。
生きている意味も価値もねえのさぁ、ヒャッハッハ……』
 嘲るスカーの笑い声は、どこか自棄めいて微かに震えていた。
 そこで、急に彼女は聞き捨てならない様子で顔を上げて、スカーの方へと振り向いた。



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