第43章


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『はっはっはっ、謙遜を。その中身は全て賭けの勝者に贈られるべくして集められたものであり、
結果として賭けは君の一人勝ちのようなものだ。気にせず配当として受け取られよ。
我が名はピジョット。今宵の輝かしい勝者の名、是非ともお聞かせ願いたい』
〈あ、はい! 私は――〉
 それから結局、俺が懸念していたような事態は起こらず、彼女は全くの無血でもって己の存在を知らしめ、
認めさせてしまった。俺には何をすることも、する必要も無かった。

 食堂から帰る途中、面白くて楽しい方々だった、と彼女は食料の詰まった袋を抱えて嬉しそうに笑った。
俺は関心と呆れ、安堵が複雑に入り混じった息を吐き、”大したものだよ、君は”と呟いた。
 そんな俺に彼女は袋から木の実を取り出し、そっと手渡して微笑む。
〈別に何も大したことなんてしていません。私はただ普通にいつも通り皆さんと接しただけですもの〉
”奴らを相手に、容易いことじゃあない”
〈それはあなたが偏った見方をしているだけですわ。見た目や評判、勝手な決め付けで壁を張って接されたら、
誰だって身構えちゃいます。それでますます相手が悪い風に見えて……どんどん悪循環。
本当は仲良くなれるかもしれないのに、そんなのって悲しいじゃないですか〉
 奴らのことがさも悪そうに見えるのは、俺が偏った目で見すぎているだけだと彼女は諭す。
 偏った決めつけなどではなく奴らの普段の蛮行や素行の悪さは事実であるのだが、
彼女の恐れや分け隔ての無い態度が、物事を丸く治めてしまったのもまた事実。
何だか腑に落ちないながらも、俺は言い返すこともできず、やれやれ、と力なく首を振るうしかなかった。


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