第43章


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『アホか! あれは仲良く顔を突き合わせてんじゃ無くて、鼻持ちならねえクソッタレに
睨みを利かせてやってたんだよ。それ以外で野郎なんかと仲良く顔を突き合わせる趣味なんざねえ』
〈でも本当に嫌いあってるのでしたら、顔を少しでも向き合わせるのさえ嫌なはずですっ。
教会の子ども達を見ていても、喧嘩をしている子達は顔を背けあっちゃってお互い見ようともしませんもの。
その内すぐに放っておいても仲直りしちゃうんですけどね、ふふ〉
『あのなあ……ガキと一緒にするんじゃねえよ。やれやれ、どうにも頭がお花畑のようだな、オメェ』
〈お花畑……? 私は一応、電気ポケモンの端くれなので、残念ながらお花を咲す事は出来ませんけれど、
本当にお花畑になっていたら鏡や水面を見るたびに素敵ですね。あなたの頭のその立派な赤い扇状のお花が羨ましいです〉
『俺の頭のこれは、花なんかじゃなくて鬣だ、タ・テ・ガ・ミ! 嫌味で言ってんのがわからねえか。
鼠や猫、獣に本当に花が咲くわきゃねーだろうが』
〈あら、近所の森に住むシキジカちゃんやメブキジカさんは、鹿――れっきとした獣ですけれど、
春になると頭や角にお花が咲くんですよ。あれが本当に可愛くて〉
『テメーのご近所さんなんてしらねーよ!』
 懲りずに悪態を振り回し突っかかっていく黒猫を、彼女は天然でやっているのか、狙ってやっているのか、
まるで悪意を蒸留して無害に変えてしまう機械でも頭に埋まり込んでいるかのごとく意に介せずに、
のほほんとした調子で往なして行った。
 その間俺はまるで出る幕無く、呆れを超え、ただ圧倒されてその様を眺めていた。
 そんな応酬が続き、やがて、『も、いいや……何か、もう疲れた……』とうとう黒猫は根負けし、
精根尽き果てた様子でふらふらと自分の席に戻っていった。


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