第43章


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 別に上からの評価に誇りや名誉を感じていたつもりは無いが、対外の事は割り切れる俺でも、
腕っ節だけが取り柄の問題児共と同列に扱われるというのは、少々不満に思うところもあった。
こんな落ちこぼれ共と俺は違う。そんな無意識に片隅に抱いていたものを、
スカーの奴には敏感に嗅ぎ取られていたのかもしれない。

『ハンッ、いつものダンマリかよ、腰抜け野郎』
 ぐいと顔を突き合わせて睨み込み、黒猫は更に挑発する。
いつもであれば、歯牙にもかけずに”フン”と鼻を鳴らして俺の方から顔を背けて立ち去る所だが、
今日に限ってはそういうわけにはいかない。ケダモノ共を黙らせる”見せしめ”にしてやるのは、
部隊内で何かと目立っているこいつが一番いい。そう考えていた。
 俺は黒猫の赤い瞳の目を確と睨み返し、バチバチと頬に電流を弾けさせた。
『おっ? ようやくやる気になりやがったか、クソネズミィ。いいぜ、かかってこいよ。
その高慢ちきな鼻っ柱へし折って、根性叩きなおしてやる』
 黒猫は少し意外そうに驚いた後、愉快そうにニヤリと牙を剥きだした。
 睨みあったまま、俺は頬に充電を続け、黒猫は後ろ手でしゃりしゃりと爪と氷の礫を研ぐ。
互いに喉元すれすれに刃が迫っている鍔迫り合いのような張り詰めた緊張感の中、先に飛び出したのは――
〈そんなにずっと見詰め合っちゃって、お二人とも仲がよろしいんですね〉
俺の電撃でも、黒猫の刃でもなく、一体何を見ていたのか、まるで空気を読めていないあの子の呑気な言葉だった。
思わずがくりと脱力して、黒猫は氷の刃を手からすっぽ抜けさせ、俺も溜めていた電気がプスンと散った。

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