第43章
[52]
――折からの強風に煽られて、炎は凄まじい勢いで森全体を呑み込んでいった。
森を抜けた所から程近く、瓦礫の散らばる焦土の上に、黒い影が一塊となって佇んでいるのが見えた。
件の敵軍小隊の兵士達と、そのポケモン達だった。
兵士もポケモンも燃える森を見上げ、一様に嘆き、絶望した面持ちで立ち竦んでいた。
俺は身を隠そうともせず、血に飢えた獣のようにじりじりと彼らに近付いていった。
――俺の姿を見付けると同時に、彼らは驚愕の表情を浮かべ、更に寄り集まった。
走って逃げるだけの気力も体力も、もう既に残っていないのだろう。
数人の敵軍兵士を囲み、そのポケモン達は円陣を組むような形で守りを固めた。
やがて、俺が“誰”か、という事が伝わったのか――彼らの顔は緊張と恐怖の為、奇妙に歪んだ。
しかし彼らは最後の力を振り絞るかのように、玉砕覚悟で俺に襲い掛かってきた。
――だが、どれだけ束になって掛かってこようと、策も何も無く、ただ捨て身で向かってくるだけの、
しかも疲弊し体力も残り僅かな連中をあしらうなど、俺にとっては雑作もない事だった。
俺は易々と彼らの足元を掻い潜り、隙だらけの背中へ向け、勢いよく電撃を放った。
彼らは耳をつんざくような絶叫と共に、糸が切れた操り人形の如くバタバタと倒れた。
余波を受けた敵軍兵士は呻き声を上げながら、苦痛に地面をのたうち回った。
自軍の兵士達が駆け付けた頃には既に、全ての片は付いていた。
――まだ息のある敵軍兵士は捕虜として連行され、その手持ちのポケモンも没収された。
更にその周囲には、攻撃の煽りを受けたものか、野生のポケモン達も少なからず倒れていた。
恐らくは元々その森に住み、火事に追われて逃げ出してきた者達だろう。
自軍の兵士達は役得とばかりに彼らを捕獲し、次々と軍用トラックの荷台へ積み込んだ。
――そして、その薄汚れた荷台の片隅に……「あの子」はいたんだ――
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