第43章


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”どうして、何の為にこんなことを? そんなの、あなたには何のメリットも無いだろう”
『んー、そうだねー。なんだろ、”もう疲れちゃった”ってヤツかな?
 ずーっと彼らから逃げて隠れて匿われて、その度に……。同じ事を何度も何回も幾度も幾回も
繰り返してきて、もう心がへっとへとの体もくったくたなの。だから、ここらで終わりに
しちゃおっかなって思ってさ。で、どうする? ボクはおいかけっことかくれんぼは得意だけれど、
戦うのってそんなに好きじゃないし、君の今の力ならか弱いボクなんて簡単に捕まえられるかもよ』
 少し項垂れ、伏し目がちにしてミュウは言った。
 暫し逡巡した後、俺はゆっくりと首を横へ振るった。
”答えは変わらないよ。俺はこの村で暮らしていきたいんだ。軍での褒美や名声に興味は無いし、
それにもう戦わなくてよくなる保証なんてのも無い。あなたも自分で言っていたろう、
自分の力を応用されれば更に強力な兵器が生み出されると。己の身で今その一端を体験してみて、
その意味がよく分かった。怪我の後遺症なんて嘘だったみたいに体の自由が利くようになった。
底知れない力だ。悪用されればきっととんでもないことになる。スカー達、部隊の者達の事は――”
 それ以上、俺の口は言葉を紡げなかった。どんな理由、言い訳を重ねたって、
彼らを見捨てるのとほぼ同義な選択には違いなかった。
『君は賢明なひとみたいで良かったよ』
 そう言って、ミュウは心底安堵したように深い息をついた。と同時に、俺の体からも妙な感覚が
根を引き抜くみたいに失せてしまい、糸が切れた操り人形みたい俺はその場にふらりと崩れた。
『君への”イタズラ”はほんの一時的なものさ。ごめんよ、イジワルなことして。
ちょっと君を試してみたんだ』

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