第43章


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 その瞬間、額から後頭部にかけて電流みたいな衝撃が駆け抜け、
瞬く間に体を伝い、手足と尾の末端隅々へと根を張るみたいに広がった。
 俺は動転してつい反射的に後ろへと飛び退こうと体に力を込めてしまった。
それから自分のその行動をひどく後悔した。今の己の身体でそんな動きをしようとすれば、
忽ち背の傷から全身へと激痛が走るに違いなかったからだ。
 しかし、予想に反して俺の足は軽々と地を蹴り、少し後ろへとすんなりと着地した。
ふらつきもせず何の痛みもありはしなかった。俺は信じられない気持ちで己の体を見回した。
そこには何も依然と変わらない筈の黄色い毛並みに覆われた体があったが、
何となく今までの自分の体とは違うような妙な感覚だった。
『ふっふーん、驚いた? ごめんねー、ほんのちょっぴり君にイタズラしたよ。
 零から一は無理だけど、一からならば十にも百にもボクにだって出来ちゃうのさっ』
 えっへんとミュウは自慢げに胸を張った。それからハッとして居心地悪そうに横に目を逸らし、
『あー……でも、こんなことすると後でぎらちーのいかりのボルテージがぐーんと……
うう、でもほんのちょっとだしいいよね……』
と、何やらぼそぼそと独り言を言った後、ゴホンと咳払いで取り直して俺を再び見やった。
『これで怪我はもう言い訳に出来ないよ。さあ、どうする? そうだなあ、友達をもしかしたら
助けられるかもしれない方法の一つを示してあげようか。君はボクをこの場で捕まえて、
軍へと突き出せばいいのさ。ボクを手に入れれば戦争はエライ人が理由を適当に見繕ってきて
直に終わるだろうし、そうすれば君の友達だって戦わなくてもよくなるかもしれない。それに、
君だって特別なご褒美貰えるかもよー? 英雄として讃えられちゃったりして! かっこいー!』


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