第43章


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 本物の彼女とそれなりに長く接してきたつもりの俺でも全然違いに気付けなかった。
メタモンと呼ばれる紫色をしたゲル状のポケモンも変身能力を有してはいるが、
どこか本物と比べると全体の形状がぶよぶよと歪んでしまっていたり、
全体の形状は安定しても顔つきが点と線で描いたかのような単純で不自然なものだったり、
姿形だけは完璧に整えても声だけは再現できていなかったりとどこかに穴があるものだ。
だが、”それ”が見せたのはまるで落ち度の見当たらない完璧な変身能力だった。
 類稀なる能力を持った未知なるものと直に対面して関心と畏怖の狭間で動けずにいる中、
”それ”はそんな反応をされるのが慣れっこなのか、意に介することなくふわりと絨毯に座り込み、
先っぽだけが太い猫じゃらしみたいな細長い尻尾をちょいちょいと振るって俺を招いた。
『まあまあ、立ち話もなんだから君も座りなよ。この絨毯、ふわふわして座り心地抜群さ。
それに色もカラフルで素敵でしょ! 赤に青に緑に黄色。ボク、この四色が特に好きなんだよね、
全ての色の原点って感じでさー』
 ”それ”は愛おしそうに絨毯の毛を短い指でなぞった。
『ここも元々は祭壇一つだけの殺風景な所だったんだけれど、ボクの趣味に合わせて改装したの。
ぎらちーには少し悪い事しちゃったけれどね。目だけでも分かる程に苦ーい顔してたっけなぁ』
 ふふふ、と”それ”は知らない者の名を上げて思い出すように笑う。
『それより早く座って座って。いつまでも突っ立っていられたらボクも落ち着かないからさ』
 まだ警戒心と抵抗感を抱きつつも従うままその場に俺が腰を下ろすと、”それ”は満足そうにうんうんと頷く。

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