第43章


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〈教会にこんな地下があるなんて、びっくりしちゃいますよね。私も最初は驚きましたもの〉
 不安が手から伝わったのか、安心させるように彼女は明るい調子で声をかけてきた。
〈牧師様の見解によれば、『何世代前の牧師様の仕業かは分からないけれど、
ギラティナ様が神々の座から降ろされ崇拝を禁止された後もなおその信仰心が捨てきれず、
密かに奉る為に用意したものじゃないかなあ』ですって。その証拠に、ええと、
確かこの辺にも……ほら、あったあった!〉
 彼女は階段の途中で石壁の一部を照らして示す。見るとそこには確かに何かの印らしきもの、
円形の中心から外側に向かって円を丁度三つの扇形に分けるような三本の線が引かれ、
その円と線とが触れる三つの点を結ぶように三角形が描かれている、が刻まれていた。
〈聖堂のステンドグラスにも描かれている世界と神を表す絵画は三角形の中に円形が
入っているような形になっていますが、この印はその逆に円形の中に三角形が描かれている。
即ちこの世の反転、影、裏側、そこに住まうというギラティナ様を表しているそうです〉
 俺は神など信じる性質では無かったけれど、神を、それも死神だなんだといわれているものを
表すものだと言われると、何だかその簡素な印が急に畏怖めいたもののように感じられた。
 しかし、わざわざこんな、一般的には邪教とされていたのであろうものが密かに崇拝されていた
曰くつきの真っ暗闇の地下に俺をわざわざ呼び出して待ち構えているなんて、
”あの方”とやらに会うのが益々不安になってしまった。
〈そんな身構えなくても、大丈夫ですよ。”あの方”はちょっと変わり者ですけれど、
急に意味無く危害を加えてくるような方じゃありませんわ。鋭い牙も爪もありませんし、
体の大きさだって私たちと殆ど変わらないくらいで可愛らしい方ですもの。
あ、でも――ううん、とにかく会ってみて〉

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