第43章


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 正面扉をくぐると、例のステンドグラスが聖堂の奥で夕日を背負い、より荘厳そうな面持ちで待ち構えていた。
〈じゃあ、私はお夕飯の仕度をしてきます。準備ができたら呼ぶから、あなたは部屋で待ってて。
その間、笑顔の復習はお忘れなく〉
”分かっているよ”と 苦笑い気味に応じて自室に戻ろうとしたところで、俺は反射的に足を止めた。
”そういえば、俺の部屋はどっちだったかな?”
 聖堂から他の部屋に続くドアは幾つかあって、俺は出発の時にどこのドアから来たのか
すっかりと忘れてしまっていた。何分、初めて村の中を出歩いたその日まで俺は殆ど部屋に篭りきりで、
教会の内部すらろくに把握していなかった。俺が呼び止めると、彼女はうっかり失念していた様子で振り返った。
〈ここ、正面扉から見て左手、二箇所ある内の手前側のあの扉から、廊下を渡って一番奥が
あなたの部屋ですわ。その隣が私の部屋、更に隣が牧師様のお部屋となっているので、
何か困ったことがあったらすぐに訪ねてくださいね。左手、奥側の扉は子ども達の部屋に続いています。
そのお向かい、正面扉から右手に同じように二箇所、手前側の扉は食堂と台所に通じます。それから――〉
 次は奥側の扉と言う所で、何か言いあぐねるように彼女は言葉を一瞬詰まらせた。
〈あの奥は、物置と祭儀等に使うお酒の貯蔵室となっています。ところで、あなたはお酒はお好きでしたっけ?〉
 彼女の様子を少し訝しく思いながらも、”嗜む程度には”と俺は答えた。
〈あら。それじゃあどうしても必要な時はこっそりお分けするので言ってくださいな。
だから忍び込むような真似をしちゃダメですよー〉
”スカーの馬鹿じゃあるまいし、そんな心配はいらないよ”
 そんな事を心配しての態度だったのかと俺は一匹勝手に納得して、やれやれと呆れて言った。
〈そうですね、ふふ。それじゃ、私は頑張ってお夕飯の用意をしてきますね〉
 ”ああ、楽しみにしている”俺は彼女の背を見送った。


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