第43章


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 何か言い掛けて、彼女は思いとどまるように口を噤んだ。俺も聞き返すことはせず黙っていた。
 一陣の風がさわさわと吹き抜け、彼女の耳と黒いフードが靡いた。
〈おっと、いけない、そろそろお弁当にしましょうか。いいかげんお腹空いちゃいましたよね。
今日の献立は色んな木の実を使ったサンドイッチですよ。えーと、これの中身は大人の辛さノワキの実、
あなたは辛いのがお好きでしたよね。それは、とっても甘ーいカイスの実、私も子ども達も大好きです。
こっちは、後味渋いシーヤの実、子ども達にはイマイチ不評ですけれど私は結構好きなんです。
何より美容に良いらしくて、食べた次の日は毛艶が違う……って、べ、別に普段から美容ばかり
気にしているわけじゃありませんからね? それからこっちは――〉
 彼女がいそいそとお弁当を広げていく傍ら、俺は風がどこか遥か遠くから極微かに運んできた、
懐かしく忌まわしい臭い、燃え盛る炎、焼ける何か、灰の臭いを敏感に感じ取っていた。
部隊の者達は、スカー達は今も生き残り、小競り合いを続けさせられているのだろうか。
ふと頭を過ぎった。だが、そうだとしても、今の俺の身体の状態では部隊に戻る事は出来ない。
もし身体能力に問題が無かったとしたら、俺はまたあの中に戻りたいと思うのだろうか?
〈どうしました? もしかして食欲無いですか?〉
 心配する彼女に俺はハッとして、頭に立ち込める懸念も振り払うように思い切り首を振るった。
”大丈夫だ、問題ない、よ。どれからがいいか迷っていただけだ”
〈そう、良かった〉
 安心したように彼女は微笑んだ。
 出来るなら、このままずっと――。儚い想いが交差した。

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