第43章


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〈はい、到着ですっ。ここ、私のお気に入りの場所なの〉
 ゆるやかな山道の傾斜を登りきり、ようやく目的地に着いたのか彼女は立ち止まって、
小躍りするようにくるりと軽快にこちらへ振り返った。俺はホッと息つき、その場にふらりと座り込む。
〈あ、あら、久しぶりの外出なのに、ちょっと無理させすぎちゃいました……?〉
 俺の様子に気付き気遣う彼女に、平気だと首を振った。
部隊での訓練を思い返せばその程度どうということは無かった。確かにへとへとになりはしたが
意識も五体も失わずに無事だ。
〈ごめんなさい、ついつい私一匹で張り切って振り回しちゃったみたいで。
でも、どうしてもあなたをここまで案内したかったんです〉
”どうしてそんなに?”首を傾げる俺に、〈ほら、見て〉と彼女は指差す。
その方を見やると、ひらけた木々の隙間から村の全体像を見下すことができるようだった。
一望に収めた村は、木々の枝が丁度よく額縁のように景観を縁取っているのも相まって、
ますます絵画の一場面みたいに見えた。
〈ね、結構いい眺めだと思いませんか。なんだか絵に描いたみたいでしょ、ふふ〉
”ああ、悪くない”
 俺と彼女は横に並んで座り、ぼんやりとその光景を一緒に眺めた。
〈私、ここから見える村の風景が一番好きなんです。何だか色々鬱憤が溜まってどうしようもなく
『うわー!』って気分になっちゃった時は、よくここにこの風景を見ながら風に当たりに来るの。
あ、今日は別にそんな気分というわけじゃないですよ。ただ、あなたにこの村をもうちょっと
好きになってもらえたらいいなーと思って。そして、出来るなら、このままずっと――〉

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