第43章


[108]無題


 俺や部隊の他の者達も恐れなかったのは、俺達がまるで迷子になった時の子どもと
似たような目をしていたからだと彼女は語った。
”俺がやってきた事は、子どもが言いつけを破ったなんてものとは規模も数も違う。
残虐に冷酷に他者の命を踏み台にして生きてきたんだ。許せるはずが……許されるはずが……!”
 また胸が苦しみだし、俺は強く押さえ付けた。爪が食い込み、血が滲んだ。
〈確かに今まであなたは多くのものを奪ってきたのかもしれません。
でも、あなたがその痛みを苦に己の命を投槍にしたところでそれが戻ってくるわけじゃない。
それどころか、あなたの言葉を借りるなら、あなたの代わりに”踏み台”となってきた方々の
命が無駄に終わったことになってしまう……!
 前にも話したかもしれませんが、私の両親は私がまだ物心つかない程に幼い頃、
戦禍に巻き込まれて亡くなりました。幼い私だけが生き残っていたという状況からして、
両親はきっと私を庇ったがために亡くなってしまったのでしょう。その事で私も一時期、
思い悩んでいた時期もありました。でも、ある時思ったんです。そして、変わったんです。
両親の分、長く生きた代わりに、誰かの助けになって生きていこう。
それで両親がかえってくるわけじゃないけれど、私だけの力なんてたかが知れているけれど、
同じような悲しみを味わうひとを少しでも減らすことが出来ればそれでいい。
自己満足かもしれないけれど、両親がそれで本当に喜んでくれるか確認しようも無いけれど、
何もしないでずっとうじうじしているよりは絶対いい〉

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