第39章


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今一度、鋭い閃光が轟き、怒りに……悲しみに満ちた咆哮が響き渡る。
「止めるんだアブソル!……アルセウス!」
徐々に重なっていく二つの白い姿に向かい、俺は思わず叫んだ。
このままでは、アブソルの存在が消滅してしまう。いや、そればかりではない。
もし……負の感情に囚われたまま、アルセウスが覚醒してしまえば……
この世界も、神の存在すらも危うくなってしまうのだ。
だが、現世との隔たりは未だに大きく、俺の声は届きそうにもない。

それならば――
俺は再び、腕輪に気を集中させる。
生死をも越えた帝王たる俺に、もはや不可能などある筈がない!

高い金属音と同時に、黒の球体から暗闇のような靄が流れ出す。
靄はマントの切れ端に纏わりつき、みるみるうちに切れ端は元の形を取り戻した。
それをいつも通りに羽織り、俺は更に念を掛けた。
空色の球体が淡く光り、俺の周囲に一陣の風が巻き起こる。
その風をはらみ、ドンカラスが羽を広げたように、バサリ、とマントが大きく翻る。
「目を覚ませ!俺はここにいる!俺は決してお前を裏切らん!
 俺の人生が俺のものであるように……お前の人生はお前のものだ!」
俺は漆黒の翼を背に、風を捉えて空中へと舞い上がった。

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