第39章


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糸のようにほどけて散ろうとした己の端を、ぐいと掴まれ引き寄せられる。
『やれやれ、希薄になっちゃって。年長者より先に若い奴が逝くんじゃあない』
 己を繋ぎ止めるは誰ぞ?
『しっかりしてくれよ。こんな時は君はもっとずっと生意気に、”まだ成仏してなかったのか見知らぬ悪霊め。俺から離れろ”とでも、言ってくれるところだろう。なあ、ピカチュウ』
 ピカ、チュウ?馴染みのある響き。己の何かが脈打った。
ピカチュウ。繰り返してみれば、より鮮明に染み渡り、馴染む。実に良く馴染む。
ああ、そうだ、そうだった。馴染んで当然。それが己――いや、俺だ!
 途端に失いかけていた思考や記憶が激流のように押し寄せ、空っぽだった意識になだれ込んでくる。
『うん、それでいい。久しぶりだな。俺のことも思い出してくれたかな?』
 ……このずけずけとした馴れ馴れしさ、思い出したぞ。
シルフビルの戦いで俺の体を乗っ取りおったあの悪霊だろう。
『……まあ、それも間違ってはいないけれど』
 ひどくがっかりとした気分が意識に伝わってくる。
が、俺の知ったことではない。まったく、気持ちよく成仏しようとしていたところを邪魔してくれおってからに。
『おや、随分とあっさり最期を受け入れるんだね』


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