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《完結》負けない!!負け犬【１】～２０代後半・真選組女子隊長の日記～

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[68]１１月１日

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１１月１日大安吉日。

空は綺麗な秋晴れ。

私は早朝から屯所の女子隊長室にいる。

今日ここから花嫁行列を出す為だ。

部屋には着付けやメイクの為、歓楽街のお水のお姉さん達が数名駆け付けてくれた。

私と違い、『魅せる』事を生業としている彼女らは、特別な日の私をどんどん変身させていく。

身を任せて小一時間…

｢出来たよ、華蓮さん！
ハァ～…やっぱ綺麗だねぇ。

さ～すが元大江戸小町だわ。｣

おきやの女将さんが溜め息をつきながら褒めてくれた。

早く銀時にも見てもらいたい。

彼、何て言うかなぁ。

姿見の前に立ち、改めて自分の姿を眺めてみる。

お登勢さんから譲り受けた白無垢は、朝日に銀糸が反射してキラキラと光っていた。

｢髪には華蓮さんの注文通り、パールのバレッタを乗っけといたよ。｣

髪を結ってくれたソープ嬢が、鏡越しに笑いかける。

そう、これは誕生日に銀時がくれたものだ。

ようやく髪も伸び、使える時が来た。

鏡の中の自分の変わり様に驚いていると、廊下から声を掛けられた。

局長のようだ。

女将さんが襖を開け、局長を招き入れた。

すると紋付き袴の局長は、普段見慣れない私の晴れ姿に立ったまま目を見開いて、しばらくボーッと見とれていた。

しかしハッと我にかえり、用件を言った。

｢華蓮さん、お客様だよ。

遥々遠くよりやって来て下さったんだ。
ありがたくお迎えするんだよ。｣

そう言う局長の後ろから、鶴の柄の付いた黒い着物を着た人が入ってきた。

｢…母さん…｣

呼んだはずのなかった母が、何故かそこにいた。

｢おめでとう、華蓮。

驚いたでしょう？ウフフ…
実は、この間銀時さんからお電話いただいたのよ。

『女子隊長、一世一代の花道を見届けてやって下さい』ってね。｣

銀時が…

｢銀時さんなら華蓮を幸せにしてくれるって、その時確信したわ。

良かったわね。彼に決めて。｣

・―・―・―・―・―・

午前十時、屯所の門扉が開かれた。

局長を先頭に、隊士達を従えた私の花嫁行列がゆっくりと歩き出す。

門の前には街の人々が集まってくれており、お祝いの言葉が次々に飛び交った。

行列は静かな居住地を抜け、かぶき町の歓楽街を練り歩き、神社へ向かう。

道々には、嫌な客から助けてやったキャバ嬢、殺されかけていたところを救ってやった泡姫、私を勧誘したニューハーフパブのママ、補導して更正させた不良など、沢山の人々が私の門出を祝い、見届けてくれた。

夕方起き出し、朝に眠る歓楽街の住人にとって、この時間帯は相当キツイはずだ。

それでも私の門出を祝ってくれる皆のあたたかい心が、胸に深く染み入る。

・―・―・―・―・―・

神社に着いた。

神殿には既に銀時側の親族が座している…

とは言っても、銀時は物心ついた頃よりみなしごなので親族という親族はおらず、代わりに新八君と神楽ちゃんが列席している。

向かい合う形で、私の親族も座る。

私も親族は無いに等しく、母以下、局長と土方さんのみだ。

両家に挟まれる格好で銀時と私が座った。

神主様の祝詞が読み上げられる。

緊張感を含んだ空気が参列者を包み込む。

｢三三九度を行います。｣

神主様の呼び声に、銀時と私が立ち上がる。

巫女さんに小声で教えてもらいながら、紅い盃になみなみと注がれた御神酒を交互に飲み交わす。

参列者は皆うっすら涙を浮かべて見守ってくれていた。

｢これにて神の御前にて、両家の婚姻が結ばれました。｣

神主様の言葉に、私の親族側から｢ウワアァ～ン!!｣と泣き叫ぶ大声が上がった。

感動屋の局長と土方さんだった。

・―・―・―・―・―・

挙式を終え、銀時と私はお色直しに向かった。

午後からは皆が境内で、披露宴を開いてくれる事になっているのだ。

挙式の和装から、披露宴用の洋装に着替える。

銀時はホストクラブ【高天ヶ原】から借りた白いスーツ、私はもちろん坂本さんから送られて来たあの純白のドレスだ。

｢さぁ、これを持って。

…あぁ、やっぱりこのお花で正解！

華蓮さんによく似合ってるわ～。｣

お花屋のヘドロさんが今日の為にブーケを作ってくれた。

真っ白い、私の大好きなガーベラ。

そして髪には、いつも私の胸ポケットにあるラインストーンのコンコルドクリップ。

どうしてもこれが付けたくて、洋装ヘア担当のオカマのアゴ美さんにおねだりしたのだ。

髪を整えてくれていたアゴ美さんが、ふと私の肩を見て驚いた声で言った。

｢まぁ、華蓮さん！

アンタ肩にこんな傷が…!!

こんな肢体を皆の前にさらけ出すつもり!?｣

細い肩ヒモの横からは、以前ヤクザに撃たれた時の銃創が覗いていた。

｢あら、それは困りましたねぇ。せっかくの晴れの舞台だというのに…

あっ、そうだ!!こうすれば…｣

ヘドロさんはブーケからガーベラを一本抜き出し、肩ヒモにくくりつけた。

｢よし！これで傷も見えなくなりましたよ。｣

ヘドロさんの急な対応が、ピンチを救ってくれた。

ヘドロさんは怖い顔だけど、とても人想いだ。

・―・―・―・―・―・

会場の境内には、街中の方々が集まってくれていた。

テーブルには各お店から持ち寄られた品々が、所狭しとならんでいる。

しかしさすがかぶき町。

唐揚げ、フライドポテト、野菜スティック、フルーツ盛り合わせ、からしレンコン、乾きもの、ビール、ドンペリ、Ｖ･Ｓ･Ｏ･Ｐ…と、大人の街の香りプンプンの献立だ。

そんな事は気にも留めず、神楽ちゃんと総悟君は料理を貪り食い、新八君はタッパーに丁寧に入れて持ち帰ろうとしている。

さっき挙式終盤で泣き出した局長と土方さんは、洋装に着替えた私達を見て改めて号泣していた。

・―・―・―・―・―・

｢宴もたけなわといったところでぇ～ござぁ～いますがぁ、ここで新郎が皆様への御挨拶と感～謝を述べさせていただきまぁ～す。｣

司会のストリップ劇場の支配人が、銀時にマイクを手渡した。

普段、悪い言葉使いのお手本のような男である銀時が、皆の前で御挨拶をしようとしている。

…うーん…不安だなぁ。

しかしその不安は不要だった。

｢皆様、本日は坂田・山田両家の挙式ならびに披露宴を催していただき、誠にありがとうございました。

華蓮は不甲斐ない俺の元に嫁いだばかりに花嫁衣装も着せてやれなかったのですが、皆様の御厚意により、こうして美しい姿を御披露する事が出来ました。

俺は孤児です。
物心ついた頃からみなしごです。

だから旦那の役割も、父親のあるべき姿も、家庭の守り方も、何も知りません。
ですが、自分の知らない家族の温もりも、華蓮とならば築いていけると確信しています。

皆様にはこれまで同様お世話になること山の如しでしょうが、あたたかく見守っていただきますようよろしくお願いいたします。｣

………出来た。

銀時がキレイな日本語でキメた。

会場の皆もいつもと真反対の彼の姿に驚いていたが、それはやがてスピーチの内容を聞いた感動に変わり、すすり泣く声さえあった。

我が旦那ながら、いつもに増してかっこよくみえた。

私はこの人と生涯添い遂げるのだ。

改めて自分の決心を確認した。

夕日の沈み始めた境内で、彼はマイク無しで叫んだ。

｢俺は俺の大事なもん護る、ただそれだけだあぁーーー!!!!!!｣

★負けない!!負け犬～二十代後半女子隊長の日記～★

～ＥＮＤ～

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