〜第4章〜 黒の男


[46]2012年 6月19日 午後7時03分


さっきのような大きな気配が無い。

《やりましたね!》

パルスの声でやっと肩に力が抜けた。

「こ……怖かったぁ……」

正直言って、怖かった。
でも、とりあえず危険が去った。次は清奈とハレンを見つけな……


再び地が揺れた。

「しま……!」

気づいたときには、途方もなく大きな握り拳が上に。それが僕の頭上……



































――――――――――――

「……!」

《どうした、セイナ》

「……何でもない」

今、なぜか
私の背筋に悪寒がした。

やはり悠もハレンもいない。ダミーの時間帯があるのなら、どこかに綻びがあるはず。
この世界全てが丸々複製されたなんて、有り得ない。
有り得るとすれば、それは人間の限界を遥かに越えている。

駅は異様に静か。
倒れている人間も数人見かけた。不気味な程何も感じられない。冷気が立ち込めているように錯覚するぐらい。

「パルスかステラと通信できない?」

《……不能だ》

つまり
再び、私は1人か……。



「……くっ」

その場でバク転。
すぐさまフェルミを抜き、攻撃してきた方向に向ける。
「はじめましてやなあ、清奈。死角から不意打ちしたつもりやってんけど、通じまへんなぁ……」

「どこだ!」

空中を見渡すが、それらしい姿が見つからない。

攻撃してきたのは確かだが、それが何かは見えなかった。
瞬速で体を貫く白の斬撃。貫かれたことに気づく前に息の根を止めることを可能にする。
冷たい殺気と共に流れてくる力が、私の神経を硬直させる。
確信できることがある。
相手は、今までのようなネブラとは比較にならないほどの強さであるということだ。

「出てこい……私はいつでもお前と剣を交えるけど。いつまで茶番をするつもり? ネブラ」

すると真上から声が返る。
「ネブラ……そう呼ばんといてくれへんか? うちは『ツクヨミ』っていう立派な名前があるもんで」

「ならツクヨミ、姿を見せなさい。さっきのは遊びに過ぎないんでしょう?」

「最高クラスのタイムトラベラーなんやったら、うちの姿くらい、捉えられるんちゃうか?」

漂っているような力が動き出した。
来る。
私なら、捉えられる、か?

馬鹿ね。
私は……

「さぁっ!!」

後方に剣を叩き下ろす!

響きわたった金属音。

「へえ」

僅かに感心の声が聞こえた。

続けて相手は私に攻撃を仕掛けてきた。
もはやその剣筋は、嵐吹き荒れる旋風にも似ている。相手の、白い長髪が踊る。私の、黒い長髪が揺れる。
ツクヨミ。
その名にまさにふさわしい。
月を詠んだ唄に出てきそうな、かぐやにも似た美しさ。
それは私が見ても、こう思える。

彼女もまた、生粋の剣士である。

右手の小刀が喉元を横にかする。
それを私は下に屈みこんで、フェルミを全力で突く!!

短剣使いなら、力で押されると不利になる。
私は、荒れ狂う竜巻の中で走る竜のように、
或いは颯爽と駆ける獅子のように、
相手の心臓めがけて突いたのは……

「百舌鳥(もず)の翼!」


フェルミが固いものに当たる。

「しまった!!」

ツクヨミは、その白い髪の毛を生きているかのように動かし、突きを髪の毛でガードした。
更に髪の毛がフェルミに絡み付き、私の手までも縛られてしまった!

ツクヨミのすぐ目の前で無防備な状態になってしまった。

「離せ……くそっ!」

暴れても抜け出せない。

「あっけないなあ、清奈。もっと苦戦すると思っとったんやけどな〜」

ツクヨミがニコリと笑う。短刀が私の首に当てがわれた。

「短い時間やったけど、それなりに楽しかったで。ほな、さいなら」

右手の短刀が振りあげられた瞬間。

今だ……!

「プレスト!」

「な……!」

私は、フェルミにありったけの魔力を注ぎ、フェルミに強い電流を流した。

「なんや……とぉっ……!!」

ツクヨミに強烈な電撃を与え、髪の毛の拘束が解ける。

「もらった!」
すぐさまフェルミで横なぎをかける。
後ろに一歩下がったツクヨミに更に追い討ちをかける!

「……くっ!」

ツクヨミの左手の短刀を弾き飛ばした。
右手で下から反撃をかけてきたツクヨミだが、その剣筋をかわして差しこむのは容易だ……!!

私はツクヨミを勢いで押し倒した。

私は立ち上がり、横になったツクヨミに刀先を向けた。

「形成逆転ね」
「そうかいな?」

余裕のある笑みを浮かべたツクヨミ。するとツクヨミの髪の毛が今度は足を縛りつけた!

まずい、身動きが……!!

「これでも食らええっ!!」

ツクヨミが、頭を大きく降って私の足を掬いあげた!強制的に転ばせられ、とてつもない力で振り回された後、壁に向けて放り投げられた!
駄目だ、体勢が整わな……!



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