〜第4章〜 黒の男


[41]時刻不明 無刻空間…


白く染めあげた碧眼の少女は、自身の名を持つ双刀を手にした。

「いよいよ、今日やな」

いかにも楽しそうな様子だ。

「鍵を持つ者達との戦い……。負けるわけにはいきませんね、どうぞ」

「おう、おったかウィズ。そやな、最低でも相手のデータを取らなあかん。まあそんな結果で終わりたくないんやけど」

「ラファスタはどうしますか?」

「適当に泳がしとく。どうせうちらの指図なんか聞かないやろうし、適当に暴れたらええんちゃう?
もし消えても、あの程度ぐらいなら代わりはいくらでもおるからな」

「了解……。相手の事前データを把握した以上、勝機は十分にあります。まずは……」

ウィズが、その名の通り、ノートぐらいの、とても薄いパソコンを取り出す。
横のボタンを押すと、自動的に開き、起動した。


「相沢悠……戦闘力はほぼ皆無に近いものの、契約者は、あのパルス。あまり油断はできないでしょう。
星影ハレン……鍵を所持していないことから、彼女と戦うのは徒労になるでしょうね。
そして、現段階で最要注意人物、長峰清奈……」

「清奈はうちがやるわ」

「お願いします、どうぞ。では、私はハレンのサポートを妨害しましょう」
「じゃ、残りはラファスタに適当にやってもらえばいいわな、よし、完璧や」

「ツクヨミ、相手は雷の戦姫です。くれぐれも油断無きよう。彼女は3つの奇跡を起こすと言われていますから。どうぞ」

「よう分かっとる。3度だけ奇跡を起こせる蓬莱珠玉の雷の力。それも侮れんな……清奈はピンチになったら確実に使いおるからな」

「……そろそろ予定の時刻。計算では、あと45秒で、予め仕掛けた私のメカニックが作動。その90秒後、我々の元にやってくるはずです。どうぞ」

「ラファスタはおるな?」

「ええ、ぬかりなく」

ツクヨミが、双刀を交差させ、刀を研ぐ。

「あの方に恩を返すときやな。なんとかしてシヅキ様を復活させるんや」

「……シヅキ様が、とても好きなんですね」

「え? いややな〜ウィズ。からかわんといてや〜。シヅキ様は、うちにとっては恩人やねんで。そんなラブラブぅ? な感じやないんやから」

「私のデータでは、ツクヨミの口数が急に多くなった場合、98%の確率で図星であるという結果が出てますが」

「あ、あはははは。バレてもうたか、しゃあない」

「時間です。 プログラム起動カウントダウン。5……4……3……2……」
途端、ツクヨミとウィズの姿が消え去った。







地が割れるクラック音が響く。

「く……クハハハハ!!」

巨体はまるで、岩のよう。長く伸びる剛腕を持ち、その姿は奇妙なのか異様なのか。
聞こえるのは雄叫びのみ。筋肉の硬化……
腕力の向上……
もはや人間の理解を越えている。

「俺一人で十分だ。右往左往して朽ち果てるがいい、人間ども!! フハハハハハハ!!」

ラファスタ――

他のネブラからも敬遠がちであり、自己中心的な言動や行為を行い、実力は、全兵選抜親衛隊「ソディアック」にほぼ同等。
いや、実力的には十分なのだが、その性格が災いし、上級クラスのネブラに反感を買ってしまったらしい。

ラファスタが動く。

広間へと通じる扉を、小さくて通れないので、壁を叩き割って通路を作る。

「来よったで。反則が」

他のネブラ達は、憎しみの表現も込めて、「反則」と呼んでいる。

一歩足を踏み出す度に地面が僅かに揺れる。
すぐ上に飛んでいたコウモリが飛び立った。

「じゃ、始めよか。ま、ラファスタ、最初からあんさんのことなど誰も気にしてへん。適当に暴れとけ」

「結構だな、クハハハ!!」


「ツクヨミ、本当によろしいのですか? どうぞ」


ウィズは言外にこんなことを言っている。
『反則を野放しにしては作戦が崩れてしまう』と。


「しゃあないやろ」

「そうですか……」

ウィズは、ツクヨミが出した、ため息混じりの返答を適当に流した。

その時に、少しだけウィズは苦笑にも似た笑みを浮かべる、唇が少しつり上がった。







「へ〜」

その三人のネブラの様子を、水晶を通して見ている少女がいた。

「今度はこの人達が行くんだ〜。ところで「カギ」ってなんだろう?」

今回の戦いは
「カギ」を巡る戦いらしい。

「なんのことだろ? う〜ん……」

その少女が人指し指を口元に当て、首を傾げて考える。

「あ!」

何かを思い出したらしい。

「もしかしたらもしかして……? うふふ、だとしたら……あたしもついていこうかな?」

少女が水晶を手で覆うと、たちまち消えた。

「何だか面白くなりそ〜!キャハハッ!」

無邪気に喜び、その少女はどこかに向かった。

きっと、ツクヨミ達についていくのだろう。

とても嬉しそうに、昼下がりのおでかけをするようにウキウキする。

紫のオーバーオールを身に纏って。

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