〜第5章〜


[40]朝6時17分


「片づけをしてくださいよ〜」

青い髪の女性が今日も、男の部屋に立ち入っている。相変わらずメイド服を着こなしている。

そして男は吸い殻で山盛りになった灰皿に、吸い終わったタバコを突き刺した。

「ビールとおつまみしかない……生活荒れてますね」「どういたしまして」
「一言も褒めてません!」
メイドは小さな冷蔵庫を開けながら言った。
メイドは呆れながら周りの掃除を始めた。散らかした当人も手伝うべきだが、メイドの抗議の目線を軽く無視している。

「煙草くさいし、吸いすぎてガラガラ声になってるし。そんなもの吸っていったい何の得になるんだか……」
「吸えば分かる。お前、確か年は……」
「言っちゃダメ!」
「そうかい」

男は未だ定位置に座ったまま、箱に入った最後の1本にライターで火を付けた。

「ところで話ってなんですか? 収穫あったんですか?」
「収穫? ああ、ある。だが残念ながらネブラの連中はまだ動いていねえな」
「なんだ。適当なこと言って私に掃除させようとしたんですね? なるほどなるほど」

このメイドは、納得いかないことがあると「なるほどなるほど」と言うことを男は知っていた。
「いや、案外重要なことだぞ?」
「……では、なんですか?」
「お前の年が四十……」
「おおっと手が滑りました」

その瞬間、包丁が男の方へ飛んだ。明らか男の顔面に向けて飛んだと思うが、あくまで手が滑ったのだろう。

男は何気無く首を右に傾けて包丁攻撃を回避する。

「というのは冗談だ」
「もう帰ります!」
「だから冗談だっての」
「バカも休み休み言ってください! どうせ対した用事じゃないんでしょう?」「ところでお前、最近この辺りにマークしたか?」
「知りませんよ、それが何ですか!?」
「ということは、近くに同胞がいるな」
「……え」

メイドが部屋から出ようとして、ドアに手をかけた所で立ち止まった。

「なぜ分かるんですか」
「昨日、終業式に必要な体育館のシートを確認していたらだな。体育館裏に場所がマーキングされていた。人目のつかないような所に、マーキングだ。これはすなわち……近くにタイムトラベラーの連中がいることは疑いない」
「誰かは分からないのですか?」

いつのまにかメイドは男に向かって座っていた。

「分からねえ。しかし見当はついている」
「それは?」
「今年の4月に入ってからこの辺りに歪みが多く発生している。つまり、怪しいのは一年生の連中だ」
「そんな理由じゃ絞り込めたとは言えなさそうですけどねえ」
「だが今年に入ってから……」
「親父ーーーー!」

遠くから誰かを呼ぶ声。

「……チ。隠れてろ」

男がメイドにそう言った後、立ち上がってドアを開けた。





「どうした」
「どうしたじゃないわよ! 今日は早朝会議じゃないの! 教頭がメチャクチャ怒ってるわよ!」
「……んな話聞いてねえぞ」
「あら、あたしが覚えている限りじゃ1週間前と3日前と前日に言ったじゃない……!!」
「そうだっけか。しゃあねえ今から準備する」
「全くもう……」

ガラガラと扉を閉め
男は服装を軽く鏡で整えて言った。

「お前も怒られるな」
「その会議、欠席の旨をずっと前に出しましたよ? まさか、そんなこともしてなかったんですか?」
「ああ、してない。すごいだろう」
「すごくないです」
「んな所は気を利かせるんだな」
「私は貴方とは違うんですっ!」

メイドが机の下に隠れて首を外に出しながら言った。

「どっかの誰かさんみたいなことを言ってるんじゃねえよ」

「だいたいその、いつもは気を利かせていないかのような言いぐさに納得できません!」

部屋の半分だけ別世界かのように片づいている。

「分かったっての。それじゃあ、俺は行くからな」
「早く行けばいいじゃないですか……ふんっ!」

メイドは横を向いた。

「そのスネた顔、可愛いぞ」
「私は怒りました。怒ったから、なあんにも喋りません」
「喋ってるじゃねえか」


すると男は
ライターを忘れた事に気づき、机の裏に回り、落ちていたライターを取る。
ちょうどメイドの足と足の間にあった。



「きゃあっ!!」

メイドが机の下で跳びあがり、頭をおもいっきり天板にぶつけた。

「い、いいかげんにしてください! スカートめくりなんて男として最低ですよ!」
「安心しろ。着てるのはロングスカートだろ? 中は見えなかったからな」
「そーゆー問題じゃないです!」
「それより、怒ったから喋らないんじゃなかったのか?」
「っ……!!!!」

メイドが顔を真っ赤にして、そこら辺の時計とかヤカンとか枕とか、物を男に投げ付けた。

「いて、いてて、わりぃわりぃ」
「わりぃ、じゃなくて、すみませんでした!!」
「へいへい……」

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