〜第4章〜 黒の男


[40]6月19日 4時42分


「誰がお前の心配なんか……!」

「してくれたじゃん」

「してない!」

「だってキ」

「うるさい! してない!


「責任とってもらうって……」

「ああもう!」

バシッ バシッ バシッ!

清奈は真っ赤になりながら僕の背中を数発叩く。

「いだっ!!」


でも、
清奈はあくまでも否定しているけど、
僕の為にキスをしてくれるぐらい僕を気にかけているのは事実だ。

それは、僕にとって

何よりも大きな成果だな

そう思えた。





でも、その代償は


バシッバシッバシッ


とっても、いた〜い
竹刀滅多うちだったのは喜ぶべきか悲しむべきか……。





「先ぱ〜い! 相沢く〜ん!」

しばらくして聞こえてきたハレンの声。

「見つけた見つけた。あ〜この様子だと、相沢くん負けちゃったみたいですね〜」

「面目ない、ハレン」

「謝らなくてもいいですよ。相沢くんは十分頑張りましたもの」

優しい笑顔で答えるハレン。

「先輩から見ててどうでした?」

「……まあ、思ってたよりはましかしら。一ヶ月の間でなら、成果はそこそこってとこ」

「じゃ……じゃあ、悪くは無いって、ことか?」


「悪いわよ。逃げてばかりだったじゃない」

「あ……そっか」

そうだよな。
やっぱり……僕は、清奈みたいに、強くなれないのかな。

僕が弱いから、清奈は僕を護らざるをえなくなる。
気にかけてくれているのは嬉しいけど、清奈だって、れっきとした生身の人間だ。
僕を護る為に清奈の命を削ることになるかもしれない。
僕のせいで、清奈がやられるなんてことがあったら……。

「死なないわよ」

「っ……!?」

僕が思っていたことを読まれたのか、急に清奈が答えた。

「清奈……」

「顔に書いてあるわ。自分が護られるが為に、私が犠牲になるんじゃないかって。でもそれは有り得ないことよ」

「そんなこと、分からないじゃないか」

僕は、心の中で起こった最もな疑問を投げかける。タイムトラベラーといえど、未来を知ることはできないのだから。

「私は」

清奈は、僅かに声を強めて言った。

「ネブラには絶対に負けない。いいえ、この私は敗北なんて許されない身。イクジスを倒すまでは、誰が来ようとも何かが止めようとも、戦う。そして……勝つ」

「先輩……」

今度はハレンが言い始める。


「先輩は、全てはイクジスを倒すために、タイムトラベラーになったんですか?」

「……私は、あいつが憎い。私から全てを奪い取った。そんな奴、私の手で消す。当然の心理でしょ」

「戻ろうとは思わないのか?」

僅かに流れた風。
葉がゆさゆさと風になびく。
清奈の髪が、横に流れる。

「戻る? どこへよ?」

「イクジスは……確かに悪い人間だ。仲間を皆殺した。清奈が憎く思うのに無理は無いかもしれない」

黙って、僕の話を聞く清奈とハレン。

「でも、清奈に剣を教えたり、釣りをして遊んだりしたことだって、たくさんあるはずだ。その頃に戻ろうって、思わないのか?」

清奈は、

「悠、何か勘違いしてない?」

「何だよ」

「私に、【偽善】で固められたようなあの頃に戻れっていいたいのかしら?」

「偽善って、そんな」

「じゃあ他になんて言えばいい? 家宝の杯を手にする為だけに私に近づき、いかにもいい子ぶった態度をとったあげく、父さんも母さんも仲間達も躊躇なく殺した男に、最もふさわしい言葉って何?」

再び僕の目の前に広がったあの田園風景。
のどかな世界。

あそこには、一点も曇りはなかった。
そう見えた。

でも、それも偽善?

いや、

僕は……なんでこう
ひっかかるのだろうか。

あれだけは、本当の優しさなんだってことを、静かに胸の中で断言していた。

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