〜第3章〜 清奈


[40]2007年5月19日 夕方5時14分


「僕なんかで……良かったら」

最後にもう一つだけ、清奈に言う。

「仲間って……認めてくれないかな?」

答えは分かってる。
清奈は断る。
だって、清奈はまだ過去に縛られたままだから。
清奈は、その過去からずっと、時が止まったままなんだから。

清奈は、
フェルミを鞘に戻す。
その時清奈が目にしたものは、

海色リボンだった。


辺りは豪々と火に包まれていながら、フェルミを鞘に収めるカチッという音まで聞こえるほど静か。

「……」

清奈は、一言だけ、言った。

「……もう少し、考えさせて」









そして……。
今僕はクラスメートと共に駐車場で帰りのバスを待っている所。
日が西に傾き始め、辺りはすっかり夕焼け空だ。
パルスとフェルミが全てのネブラに関する情報を消去したので、皆すっかり先程の情事は忘れているらしい。

今日は何か……今まで生きた中で一番長い一日だった気がする。

「お"い、悠にぃ。」

ん?

「バズのるぞ」

相変わらずの花粉症グズグズ声だな。

それにしてもこいつ、さくらちゃんを背負って歩いたとき、茶を差し出してくれたんだよな。いいやつじゃないか。
「お前の恋人が待ってるぜえ?」

ニヤニや笑う。
前言撤回。
花粉症の分際で……だから違うってーの!



バスに乗る。
帰りもバスの座席は同じらしいので、再びさくらちゃんと清奈の間に座ることになる。

「皆! 今日は楽しかった?」

イエーイ。
そりゃあもう楽しかったよ。
観覧車が倒壊するぐらい楽しかったぜ!

「ここで一つイントロクイズ……になる予定だったんだけど……。皆夢のなかみたいね」

遊び疲れて皆寝ていた。まあよくあることなんじゃないか?

「あたしも……眠いや。皆さん……お休みなさ〜い」
というわけでバスガイド役の瀬戸さんが眠る。

お休みなさいのセリフの3秒後に瀬戸さんの寝息がマイクを通して聞こえだした。瀬戸さんも今日は疲れたのだろう。

左を見れば、さくらちゃんが規則正しいリズムで、すうすうと、眠っていた。
さくらちゃんの寝顔も可愛いなあ……!
服……。

一瞬汚らわしい雑念が入ったので焦って逆方向を向く僕。

右側の方は、
清奈も眠っていた。
まだ左腕に海色リボンをつけたまま。
清奈は今日、特に疲れただろう。

両隣とも眠っていることだし、僕も眠ることにしよう。
僕は大きな欠伸をして、体を背もたれに預ける。
そして目を閉じる。

すると

「おっと」

バスが右に曲がった。
頭が左に傾いて、危うく寝ているさくらちゃんと頭をぶつけかけた。
危ない危ないと思っていた矢先……

僕の肩に誰かの頭が乗る。

「え?」


清奈の頭が、僕にもたれかかる。
さらさらとした髪の毛の、精悍な顔立ちのその戦士。でもその寝顔は、純粋で無垢で、普通の少女と変わらない。
いかに戦姫であれど、心が純粋なことは誰もが認めること。

そう、僕はこれからこの清奈と、更なる戦いに立ち向かうのだ。

でもこの状況……
仲間っていうか恋人だな。え?
いやいやいや。
何で心臓がバクバクするかなあ僕。
健康診断を受けなきゃな。
あ……はははは。





そして夕空。
太陽が半分顔を出し、薄く橙色に、或いは黄金色にそまった一般道路。
まもなく高速道路に乗り、五月原へと向かう。
僕が清奈と仲良くなるという個人的な願望は、概ね成功にいたった所か?

「成功……なのか? いや……」

結局清奈に昔何があったのかは分からないまま。

『……もう少し、考えさせて』

全く……こんなときにタイムマシンがあったら……。


って、待てよ。
僕は時を渡ることが出来るんじゃないか!
何でこんな簡単なことに気づかなかったんだ!
ああ……くそっ!

僕はそれを思いついた途端いても立ってもいられなくなった。

「でも……」

清奈のいう過去は、今から何年前のいつの話なんだ?
いくら時を渡れても、その時間が分からなきゃ無理だ。

それぐらい清奈が教えてくれる?
いや、頭のいい清奈から、僕がさりげなく日時を聞き出すのはとても難しい。

「ん……ぅ……」

清奈が、小さな声で何か言う。

「ん?」

僕は耳を凝らしてその声を聞いてみる。

「ゆ……。ゆ……ぅ……。」

え?
僕の名前を言ってるのか。全く……なんていうか、
ちょっとだけ、嬉しいかな。

バスの中は平和で、聞こえる音はバスのエンジン音だけ。僕も周りの人達と同じように、眠ることにした。
バスの小刻みな振動も、今は揺り篭(かご)のように心地よい物だった……。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.