〜第5章〜


[39]時刻不明 無刻空間…


エミィは7月20日、その日へ向かう準備を進めていた。

彼女が目覚めたぬいぐるみで囲まれたベッドの下から取り出したもの。
それは大きなトランクだった。
慣れた手つきでそのトランクを開けると、中から

鋭く、エミィの顔が鏡のように反射するレイピアが姿を現した。

かつて数えきれないほどの命を奪ったそのレイピア。

殺しては眠り、目覚めては殺し、眠っては目覚める。

その鎖からは一生抜け出せない。
だが、今回は
珍しくエミィは僅かに笑っていた。
今まで全ての感情を廃し、言われるままに命を葬り去った彼女が、感情を少し取り戻した。

自分の姉に会うことがこれほどに嬉しくて、これほどに憎らしくて、これほどに悲しいなんて。

レイピアを手にとる。
ベッドのすぐそばにある机の上には写真立てがあった。
そこに入っている写真は、嘗ての家族の姿だった。

車椅子に座った自分と
その後ろに立っている姉がいる。

その写真立てをレイピアで突ついた。
写真立てが机の下に落下する。



パリン



ガラスが割れた音を聞いた。

そのまま彼女は散らばった透明の欠片と
写真に目に落とした。






「ねーねー。ルネスにいちゃん、見てみてー!」

愛らしい表情を浮かべながら渚色の男、ルネスの後ろを先ほどからくっついてきているのは、名も無きオーバーオールの女の子だ。

シヅキから貰った紅の宝石がとても気に入ったらしく、ルネスに自慢しようとしているようだが当人はまるで関心が無い。

「消えろ鬱陶しい……」

そう口を開こうと何度も考えたが、彼女は泣き出すと当分泣き止まない。すなわち自分で厄介ごとを引き込むことになる。

ルネスは終始無言を貫き通している。

「ねーねー! ルネスにいちゃんってばぁ!」

仕方なく、その宝石を乱暴に受け取った。

「ほらほら、きれいでしょ!?」

その宝石以上に目をキラキラさせている。

バカバカしい。
くだらない。
宝石を受けとりさえすれば満足しておとなしくなるだろう。

早々と宝石を返す。
そう思い手にあるそれを見た途端――



『子守りを任せきりですまないね。ルネス君』

この声は

「シヅキ様……?」

『いかにも、だよ。ははは。驚いたかな?』
「今貴方はどこに」
『然るべき位置に縛られたままさ。なあに、単純なことだよ。その宝石の中にボクの魂の一部を込めただけ』

「それはいかなる理由でしょうか」
『……外を見てみようと、思ってね』


外を見る。

ルネスは、急に自分の父親の声を聞いたことに驚き、首をかしげている少女を見た。

『連れていってくれないかな』
「なぜそのようなご決断を」
『上の者が動き始めた、とアルから通告があってね。変な動きされちゃったらボクの復活が先送りになっちゃう。それはちょっと嫌だからねえ』

ひょうひょうとした声で荘厳なルネスの問いに答える。

『7月20日……らしいよ。上の刺客があの子たちを襲うって話だから……とりあえず様子見を、ね』
「了解。直ちに」


ルネスは宝石を見つめた。

「あれ、聞こえなくなっちゃった」
「おい」

呼び掛ける。

「なあに?」








「随分綺麗な宝石だな」
「でしょでしょ!? だってお父さんがくれたんだもん!」


なかなか粋な贈り物をくれたものだ。

途端、宝石から、奇妙な角度に光が放たれ、それが乱反射した。
少女はその様子を目から放さなかった。


キレイ
とてもキレイ
キレイすぎて
気を失ってしまいそう…………。

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少女はその場に膝まづき倒れた。
その体をゆっくり抱えて起こす。

「どうぞ」

ルネスがそういうと

【彼】を繋ぎ止めるあらゆる針金を曲げるように

ちょうど宝石の色と同じような色の


目が見開かれた。


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