〜第3章〜 清奈


[39]2006年8月1日 夜8時00分


激しい爆発。
鉄の球体は形が崩れ、再び辺りに鉄骨が散らばる。

僕と、清奈は、
直撃したかのように見えたのだが……。

「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!! イヒ!! イヒヒヒヒヒヒヒ!!」

更にサーベルはもう一つ、紫色の火の玉をも作り出す。大きさは先程のと同じかそれ以上か。

「今度こそ念入りに地獄に送ってやらぁ!!」

投げつける。
赤紫色の世界。紫の火の玉。燃やし尽くす。

本日何度目かの大爆発で、ついに辺りは何もかも火が点り、何もかもが灰へと還る。

「どうだ!? みたか!? アヒャハハ!! ギャーハッハッハッハッハ!!」
笑い狂うサーベル。
清奈は……悠は……。

見えない手に導かれ、
時計の長針が12で重なる頃。
2人は……
今……!
ここに……!

「………ばっ……!!」

サーベルが何かを言おうとしたその瞬間。

流れる一陣の風。
辺りに火が燃えつくし、防御壁も魔力消費で弱まり始め、紅霧(こうむ)で視界もきかないその世界でも、
その風は清んだ、小川のようなせせらぎと共に流れる。
疾い。
僅かな風の音、空気が切り裂き
両断された。

「な……なああああっ!?」

一瞬の出来事。
疾走。
そのままサーベルの袈裟を断ち斬る。

「なぜ……生き……ぎぎぎぎぎ……」

サーベルは見ている。

自分の背中の後ろで
とてもつまらなさそうな顔をして首に剣を当てている一人の少女を。

「アリブロブリアが……なぜ効かねえ……??」

アリブロブリアは、清奈自身に対してだけに効果があるわけではない。使用者もまた、雷を封じる能力を得る。だから、【今までの】清奈なら自分に傷はつかない、当然の結果だ。

今までの……話ならば。

今は?

「………まさか貴様っ!!」

清奈はもはや雷の使い手ではない。
光だ。
僕と……同じように。
僕が【清奈の中に、いるのだから。】

どうやら雷と光は相性がいいらしい。
なるほど、
太陽光から電気を作るように
電気を流して電灯を照らすように。

僕の、パルスの力を手に入れた清奈にとっては、この短剣も意味は無い。

「ば……んなわけねぇ!! 元の力を……遥かに……!!」

サーベルが液体になりかかる。決着は近い。

「今の私は……」

清奈はゆっくりと剣を上げる。
サーベルの心臓、その一点を視る。
ただ、それだけのこと。
光の力が、清奈を更に強くした。
あらゆる感情と共に。
「今は……独りじゃない」

清奈は剣を傾け、剣先が確かにサーベルの胸と重なったことを確認し、

「やめ……






深く突き刺した。

「ぎ……ぐぎゃああああっ!!」

「悠……とどめよ」

僕は、清奈の中で、
パルスの引き金を引くのを頭の中で空想する。
それで、全てが終わる。

《ラグ・ナロク!!》

パルスの声と共に
フェルミの剣に無限の光が注ぎこまれた。

「ぎ……ぎぎぎぎぎ……いぎぎ……!! ぐぎゃぁっ……!!」

形を失う。

「ぎざ……まらぁ"……!!」

だんだんと

「うらんで……やるうううううぅぅぅぅっ!!」

消える……。

最後に辺りが真っ白になり、有山シーサイドパーク、全てに光が差しこんだ。

赤紫の血色から、
傷を優しく覆うガーゼを当てたように、
世界も、僕も、清奈も
傷が、癒されていく……。





「うわっ……と」

清奈の体から、僕は投げ出されたように飛び出た。
清奈も元に戻る。
僕は投げ出された勢いで尻餅をつく。
僕はその痛みをとりあえず我慢して立ち上がった。

「今度こそ……勝ったんだよな?」

清奈の方を向く。
清奈はやっぱり清奈で、僕の目の前にいた。

「……そうね」

清奈はまだ戸惑っていた。

《む……》
「フェルミ?」

フェルミも力が戻ってきているようだった。

《この分だと、勝ったらしいな? セイナ》

「うん、フェルミ。いろいろあったけど……」

《……ではそろそろ、お前も認めなければならないだろうな?》

「っ……!」

清奈は
らしくもなく、下を向いた。

《セイナ。貴方も理解しているはずです。貴方自身、ユウを強く必要としていることを》

パルスも言う。

さっきの清奈と僕の融合も、最初に言い出したのは清奈で、そして上手く1つになった。

「清奈……」

僕は清奈にかけてやる言葉を探すが、戦いの興奮冷めない頭で考えても、なかなか浮かばない。

「……昔のことが、気になるのか?」

清奈は僕の方を向く。

「僕に関係の無いことだって清奈は言うけど、そんなことない。僕は清奈の仲間だし、これからも清奈にとってもっといい、いや、最高の仲間になろうと努力をするつもりだ。その為には……清奈がどうしても拭えない過去を知って、励ましてあげることも、必要だと思うんだ……」

清奈は
ゆっくり口を空ける。
「……」

喋ろうとしているが、声にならないらしい。

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