〜第4章〜 黒の男


[38]6月19日4時13分


そして、銃声。

1発弾が飛んできた。
先程の威嚇射撃とは違う、とても正確な弾道。
それ故に、射撃武器より予測しやすい武器は無い。

私の左から撃たれたそれは、バトルモードでない私でも楽に避けれる。

そして左から撃ってきたということは、左に悠がいる!

直角に曲がり、悠に近づく。

竹刀のリーチに入ったら後は振るうだけ。

いた!!

10m先の木の上だ。
高く飛ぶ私。
悠は慌てて飛び降りたが、逃がさない。

更に私は飛び上がり――



「まじかよ……!!」

悠の声を耳にする。

悠が逃げる方へ高く飛び、回りこむ。竹刀を向けた。

「勝ちよ!!」

そのまま悠の脇腹辺りに横なぎを入れる……!

《リフレ フォール!》


「くっ!」

爪が甘かったか……。
竹刀を弾かれた私は、そのまま悠は向こうへと逃がしてしまう。

《なかなか苦戦しているようだな、セイナ》

フェルミの声。
確かに、甘く見すぎていたかもしれない。
でも、私は勝たせてもらう。
悠が逃げに徹しているようなら、私の方が確実に優勢。

再び気配を探り始めた。


「ふ……逃げるのは結構だけど、それがいつまで持つかしら? 悠」

悠は、焦っているためか、さっきよりも大きな気配を出している。どこにいるかは火を見るより明らか。

撃ってきたが、見当違いの方向だ。私には当たらない。

悠は、
右後方に回りこんだ。

直後私は、左足を蹴って飛び上がる。

空中で後転一回。
もういちど、悠の目の前に着地した。

更に1発撃ってきたが、悠の向けている銃口の向きを見ると、私の遥か頭上。問題は無い……。

大きく踏み込む。
左肩と首のつけねに、斜めに振るう。

《リフレ フォール!》

同じ手は私には通用しない! 再びそうすることは読んでいた。
すぐに竹刀を私の懐に戻す。

リフレ フォールは私の攻撃に合わせて展開しなければ意味を成さない。
パルスのそれは、不発に終わった。

《しまった――!》

パルスの声を聞く。
もう遅い……!!

私は、本命の攻撃である左から右に足下を横に振る……。

「よっと!」

なに――!!

悠は見事に垂直ジャンプ。竹刀はまたも空を斬る。
だが、まだだ。
その竹刀の勢いに任せて私は時計回りに一回転、そのまま右足を振り上げて蹴る!!


「あぶなっ!!」

う……
右手で止めた……!

私の攻撃を連続で止めた……!
しかも、私は足を再び下ろすまでに僅かに隙が出来る。
つまり、一瞬だけ私は無防備になる……!!


「清奈ぁ!!」

そのまま悠は、前に私に突っ込む!!

ドスッ!!

「かった……てうぉ!!」


間一髪……
竹刀の柄で悠の腹を突いた。

「ちくしょお〜〜……」

そのまま悠は
え?
ちょっと……

悠?
なんで前に倒れ……
きゃ!?









な……私……?
ちょっと!

私は
悠が前に倒れこんだせいで悠の下敷になる。
しかも、向かい合った形で。

顔が……近い……。
気絶しているらしい。目を閉じている。

全く……最後まで迷惑な奴……。




ちょっと待ってよ……。
何で……私、こんなにドキドキしているの?
いや、理由は分かっている。
私だって、
好きな人と体が重なりあったら……。





ああ、こんなときに雑念抱いてる場合か!

私は乗っかかってきた悠を横に転がす。

「はあ……」

私も体を起こす。

《意識は無いようです》

「どうやらそのようね」

《申し訳ありませんが、悠の腹を見て頂きませんか?》

パルス、私が、悠の体を触れっていうの?

「そんな不潔なこと、出来るわけないでしょ」

《見るだけだろうが》

お前もか、フェルミ。
馬鹿言わないでよ。それでも私の心が分かってるわけ?

《いや……ふむ。確かに理解できるが……傷の介抱をするのは【仲間】として当然だろう》

いつ認めたのよ? そんなこと。
しょうがないわね……。
悠が変な気起こさなきゃいいけど。


――――――――――――
「ん……?」

あ、気絶してたみたいだな。何があったんだっけ?

そうだ、清奈と戦ってあともう少しの所でやられたんだっけ。

一瞬、いける! って思ったんだけどな。

体は、動くな。
起き上がろう……としたら。

「せ……清奈?」

清奈が僕の腹の傷に手を置き、目を閉じ、何か呟いている。
僕が目を覚ましたことに気づいていないらしい。


……そうだ。
ちょっと驚かそうかな?


僕は、まだ気絶している【ふり】をした。
パルスとフェルミは、空気を読んでくれたのか、何も喋らない。
意図も察しているらしく、パルスはクスッと笑いを溢した。


「はぁ……」

清奈がため息をつく。

「目覚めないわね。どれだけ軟弱なのよ、こいつは」
清奈は、傷を癒す治癒の呪文を唱え続ける。

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