〜第4章〜 黒の男


[37]6月19日 午後4時00分


だから、最悪不可死空間に閉じ込めて消したネブラも僅かながら存在する。
しかし、それは仕留めたことにはならない。ネブラは老衰することは無いのだから、いないだけで確実にそのネブラは生きているということになるのだ。


傘を手に持ち、広げ、雨のなか学校へと向かった。
なんとなく感じた嫌な気配。私の足音と雨が振る音だけが聞こえ、どうしても自分がここに、この世界に1人しかいないと意識してしまう。

走ろう。

私は雨の日が誰よりも嫌いな人間らしい。
灰色空が広がるここに在りたくない。
灰色なのはあの日だけで十分だ。

――――――――――――

あ〜
ついに来てしまったこの日が。正直自信は皆無なんだよな。
でも、やれるだけのことはやったし、精一杯頑張ればもしかしたらってこともある。
というわけで今日は授業を受けながらも、修行で身につけた僅かな感覚を思いだそうと試みていた。

その日だけ、相対性理論をああだこうだと言うつもりはないが、異様なほど時が早く進んだ。体感速度としては、登校して座席に座って昼の弁当を開けるようなものだ。冗談抜きだぞ?

そして放課後。

席がえして座席も代わり、僕の座る列の1番前から僕の所へ来た。
「4時に、屋上へ来なさい」

先生から職員室か校長室に呼び出しを喰らったぐらい緊張する。分かるだろう?

俗にいうフルボッコになるに決まってるからな。



心の準備が出来たところで、僕は席から立ち上がり屋上へ向かう。

廊下を歩いた時
急に雷が鳴り始めた。
稲妻は見えないが、ゴロゴロと天が喚く。
おまけに風も強くなってきた。
こんな日に屋上に出る人間なんてそうそういないだろう。







屋上に続く、半分物置きと化した階段を登る。
もう使われない椅子やほうきをどかして、迷路の出口である扉を開放する。


既に二人ともいた。

「来たわね」

清奈がポケットから金色の懐中時計を取り出す。

「4時ちょうど、それじゃ始めるから、さっさと準備しなさい」

パルスをポケットから取り出す。
ふっとあのことが思い浮かぶ。
もちろん嘗ての清奈とパルスの関係だ。
この【パルス】で【清奈】と
【戦う】なんて、知っている者達にとっては、なんて痛烈な悪戯なんだろうと感じる。

「どうしたの?」

「ああ、ごめん。じゃあパルス」

《私の準備も出来ています》

「よし、バトルモード、移行開始!」


途端、僕に、
パルスの契約者としての力が宿る。
白コート、白銀の銃、群青のように深い瞳。

清奈は予め竹刀を持って来たらしく、すぐ側にあったそれを左手に取る。

「格好だけじゃ、私に勝てないわよ、じゃあ……貴方から攻撃してもいいわ。学校を囲むように被せたから校内ならどこでも構わないわよ」

「相沢くん、頑張ってくださいね。今までやってきたことを思い出して!」

ハレンが見守る中、僕は

そう、ある程度作戦を考えた。
それを実行する。
パルスが出した、地の利を活かした戦法。

まずは清奈をそこに引き寄せなければ。

清奈に向かって

3発、ワザと外すように銃を打つ。

「威嚇射撃?」

そのまま僕は、屋上から飛び降りる。
タイムトラベラーの身体能力ならこれぐらい造作も無い。

着地して後ろを振り返る、清奈もついてきている。
ていうか、清奈は通常モードなのに、普通に側に生えていた桜の木の枝、そしてそのまま地面に着地した


僕は更に後ろに数発走り、清奈を足止めする。

行くところは決まっている。それは……。



――――――――――――


どこへ行くつもりかしら?私をおびき寄せているみたいだけど。
まあ悠なりに色々考えてきたみたいだし、乗ってあげてもいいか。

《この先は、林だぞ》

……なるほど。
校舎の一部分は林。私は竹刀である以上、悠を追わないと攻撃できない。雷も落とせない。木で覆われたここは満足に剣を振るえない。私がわにとっては厳しい状況ね。

さらに、竹刀では木を斬ることはできない。本当に邪魔っ気だ。
悠の僅かな魔力を感じる。確実にこの中にいる。

奥の方は日の光も満足に入り込まない。見通しが悪い……。

じゃあ、私はなんとかして悠を外に追いやらなきゃならない。

ゆっくりと林へ入る私。
もちろん、気配を消して。どこにいる……?

7歩ほど前進した所で、

ガサッ!!

葉が揺れる。
反射的にその方向を見た。只の風だったらしい。

学校の騒ぐ声も遥か遠く、無音世界が広がる。

私は近くの木の枝の上に登り、上から見渡す。

悠はまだ自らの気配を消すことができない。微かに分かる。後はどこからのものか。






「あっちね」

右前方の方角を見て確信する。

私は、その方向に向かって走る。

激しい動きをすれば悠も行動に移すはず。
予測通り、急に悠の気配が大きくなる。

撃って来たらチャンス――

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