〜第5章〜


[36]昼11時07分


「はい! はい! はい!」

今度は誰だよって、原田か。

「先生、年はいくつなんですか?」

原田まで敬語使ってやがる。ご苦労なこった。

「えっと……あなたは、確か原田君、でしたか?」

名前覚えられてんのか!?
「はい、そうです!」

いつもの関西弁封印した原田君が、これまた丁寧に返事をしなさった。

「じゃあ、原田君。覚えておいてくださいね」

ん?

「女性に年齢と体重はむやみに聞かないようにしましょうね。これ、世の中でうまくやっていくコツですよ?」

と、今まで一番露骨な笑顔を見せた。

なぜだろう。
笑っているのに
笑っていない気がする。
むしろ先生から地震のように……ゴゴゴゴと効果音が聞こえるような。

「怒ってる?」
「怒ってるよね」
「絶対怒ってるねぇ」

と、さっきから例の女子2人組が会話している。

怒るってことは……まずいのか?
まさかあんな顔していて年齢は……


「え〜っと、そこにいるのは相沢君かな?」
「は、はいぃっ!」
「今、何か考えていませんでしたか?」
「いいえ!」
「そうですか〜なら良いのですけれど」

このメイドは人の心が読めるのか!?

「さて、そろそろ授業に入らさせていただきます」

メイドさんがプリントを手にし、全てのテーブルに、人数分ずつ配り終えた。









で、あっというまに昼休みになる。
面白みも何にもない。
ああ、つまらないつまらない。しかも自分のせいだということもあり、なおのことつまらないつまらない。

「よし……」

いつまでもウジウジしてないで、ここはビシッとだな……清奈に潔く謝ろう。
もしかしたら、謝罪の言葉を待ち続けているのかもしれない。本当に、強い心をこめて謝ったら清奈も許してくれるじゃないかな? 許してくれるんだよきっと! そうさ! そういうことに決めた!

そうして心の中で結論づけた僕は、早速机から立ち上がった。

「きゃっ!?」

ん?

小さく短い女の子の悲鳴を聞いた僕が、ハッと目の前を見ると

「あ……どうかしましたか? 悠くん」

目の前にはさくらちゃんがいた!

「ビックリさせちゃった? ごめんごめん」
「だいじょうぶですよ。それより悠くん、約束通り作ってきましたよ」

約束ってなんだ? と一瞬思った僕だが、すぐに思い出す。
さくらちゃんと交した約束を忘れるわけなし!
しかもあの時はマジで申し訳なかったのだ。だから余計あのことは覚えていた。

「はい、どうぞ」

目の前に差し出されたのは、赤い花柄の布に包まれた四角い箱。
そのなかには、そう。
さくらちゃん渾身の力作、お弁当が!


丁寧に包まれた柔らかな布の手触りを感じながら、僕は涼しげな水色の弁当箱を手にとる。

ふたを開けて見ると……。


中身は花満開。彩り溢れた賑やかだ。
トマトの赤、レタスの緑、卵焼きの黄、たこウインナーの茶。
雪の平原を思わせるごはんの上に散りばめられた、のりたまのふりかけだ。
もはや弁当として食べるのがもったいないぐらい。
もう食べる前から分かる。どれをとっても最高の味なのだろう。どんな高級食材をもってしても成し遂げられない愛情という名の料理だ。

かなりの期待をしていたが、いい意味で想像を遥かに越えていた。

「えへへ……すっごく手が込んでるね」
「あの……嫌いな食べ物とか入ってませんか?」

ないないない。あるわけねえ。

「ぜんぜん無いよ。ほんとにありがとう」
「はい!」

キター
さくらちゃんスマイル!
元気出たぞ!

僕はさっそく弁当を口にする。

あまりのおいしさに、感涙ものですよ。
この卵焼きの甘いこと!
こんなにふっくらとしていて、しかも冷めてない。
ご飯も冷やご飯になっていない。
最高。最高を越えて極上。

「ねえ、悠くん?」

なんでしょう。

「はい、あ〜ん」

さくらちゃんがあのキラっキラな笑顔で、僕の口につまようじが刺さった、たこウインナーを差し出してきている!

ああ

ほんと

今は幸せだ……

「ん?」

突然目の前が真っ暗になった。
まったくなんてタイミングで邪魔がって……

「お前ねぇ……お前って奴は……」

清奈さん。
清奈の腕が僕の顔を挟みこむ形となっているらしい。
「ちょっと……脇に力入れてません?」
「あら、そんなつもりは毛頭ないけど。ただ私はちょ〜っと、機嫌が悪いだけ、よ」
「そりゃそうって……うげげげ!!」

首が締まってる!!
死ぬっ!!

「長峰さん!」

毎度ながらのさくらちゃんタックルを決めて僕と清奈を強引に引き離した。

「けほっけほっ……」

息を整えると

「悠くんにそんな酷い事しちゃダメ!」
「お前だって今悠になんてことしようとしてたのよ!」


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