〜第4章〜 黒の男


[36]2007年6月18日 午後11時45分


「それで、パルスは?」

更にフェルミから話を聞く。

《パルスは、記憶を消去された。イクジスのタイムトーキーだった彼女は、イクジスにより著しく汚染された為、封印される前、伝説のタイムトラベラーに、それまでの記憶を消去され再びタイムトーキーとして生きることになったのだ》

「じゃあ、清奈は」

《タイムトーキーが歴史修復作用を働かせたお陰で、それまでのパルスに関する情報も一緒に消去された。証拠は完全に消され、書き換えられ、あの子は何も知らないはずだ》

「そうか……って、なんで歴史が書き換えられたのにフェルミはその事、知っているんだよ?」

《ふ……我はこれでもタイムトラベラーの中では高位な方でな。まあパルスには劣るが。このことを秘密に保つ為に都合よく我だけが記憶を保持しただけだ》

「なんだ、フェルミもやっぱりタイムトーキーの中では偉い方なのか?」

《当然だ、タイムトラベラーの中で最高クラスに匹敵するあの子につくのだからな。26個あるタイムトーキーの中でも、我は第6位。パルスは第3位だ》

26個あるうち、6番目に偉いってことだよな?

《む、そうなるな》
「清奈はシヅキを追っていて、そのシヅキはイクジスのことかもしれない……。もし、そうだとしたら」

《清奈自身が倒すべき敵と認識しているイクジスと戦うことになる。清奈の過去と、この時の戦いが繋がるということだな》

歴史は
繰り返すとよく言われる。

清奈の歴史が、再び繰り返される。再び戦いが始まり、再び決着がつく。

その時僕はその場にいるだろう。
僕は清奈に何て声をかけよう……。

確実に清奈は、シヅキを葬ろうと剣を抜くだろう。
倒せたとしよう。
その場にいる仲間の僕は喜ぶべきだろう。
清奈は、やはり、全てはイクジスへの復讐の為なのだろうか。

イクジスは、悪い人間じゃない、と
僕の心の中の何処かでうずめいている。
イクジスと同じ、パルスの契約者だからだろうか?

それとも

清奈が笑っていた時。
川辺に座り二人で釣りをしていた時

あの時に再び戻ってほしいという、叶いそうもない夢を見ているからだろうか。

清奈。
本当に、いいのか?
イクジスを倒して。
再びあの優しいイクジスを、【取り戻そうとしないのか?】
【消す】のでは無くて、さ。

こんなこと、清奈に言ったら本気で怒られるだろうな。

「ん……?」

目が覚めた。

連日の雨はもう、慣れた。今日も雨は降り続く。
桜花通りにも人気はなく、新緑も今は鮮やかさや彩りに欠けている。

今日は6月19日――

清奈といよいよ戦う日だ。

でも、この日に
あんなことが起こるなんて……。



――――――――――――

マンションの一室。
といっても、家具の類は数える程しかない。
ここに私は居を構えている。
というのも、ここのマンションの屋上は、五月原を一望できるからだ。

もう外は朝。
今日は6月19日、あいつと戦う日だ。

さっさと布団から出て、畳んで押し入れに放り込む。制服に着替え、備えつきの机に座ってトーストにイチゴジャムを塗りたくる。
表裏を真っ赤にしている間。

《セイナ、ゆがみだ》

「そう、規模は?」

塗りおわり、トーストの角をかじる。

《まだ無視できる程だが、今日になって急激に大きくなった。この分ならば、夕方に危険レベルに達する》
「あむ、そう、じゃあ……」

《物を食いながら、喋るな》

「……こくん。放課後はあいつと果たしあいがあるっていうのに、ワザとじゃないのかしら?」
《知るものか。それに、まだ確定的な規模ではない》
最後の一口を口に入れ、立ち上がった。

「警戒は続けて。シヅキの情報を手に入れられるかもしれないまたと無いチャンスだわ。見逃す訳にはいかない」

《……承知した》

「フェルミ?」

《む、何だ?》

「なんとなくフェルミの声がいつもより力が無いように聞こえるんだけど」

《気のせいだろう。それよりもセイナは、今日のユウのことと、ゆがみのことを考えればいいのだ》

「そう」

特にそれ以上フェルミの事は気にかけることもなく、登校準備を済ませて家を出た。

このマンションは私以外誰もいない。
不可視空間をマンションを被せるように展開しているからだ。
このマンションは、タイムトラベラーとネブラ以外には見えない。

不可視空間は多種多様な用途がある。

私が使うように、一般人がタイムトラベラーの存在を知れないように、不可視空間内に住んだり戦闘を行ったりする。

他にも、不可視空間は終身刑囚の檻にもなる。
タイムトラベラー達の最終手段として、倒しきれないネブラを不可視空間内に永久に閉じ込めるという使い方だ。

不可死空間は、展開したタイムトラベラーだけしか消せない。

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