〜第4章〜 黒の男


[34]2007年6月18日 午後11時14分


棚から本が落ちる。

「う……く……けほっけほっ……!」

「清奈! やめなさい!」

止めに入る父親だが、
清奈は剣で体を支える。

「イクジス……イクジス……イクジスは……!」

右足が地に付き、

「私を……エルビスを……ラグナを……オーレリアも……父さんも、母さんも、皆………!!」

左足も地に付く。

「皆を裏切ったんだぁ!」

剣を強く握りしめ、イクジスに向かい、全ての怒りの力を込め、突っ込む!!


「……お生憎様」

地面から黒い手が現れる。清奈は手首を捕まれ、前につんのめって倒れてしまった。

立ち上がろうとしたが、力が強くなかなか離さない。

「このっ!!」

縛られていない手で、前に倒れながらもイクジスの足に斬りかかるも

それすらもイクジスの長剣で弾きとばした。清奈の剣が遠くへと飛ばされた。

再び目の前に剣を向けられた清奈。

「さて、どうします? この子の命が惜しいのなら、私の【仲間】になってほしいのですが」

仲間だと……
くそったれ……!!
僕の中で怒りが沸き立つ。こんなやつが、易々と仲間なんて言葉を使いやがって……!


あいつに殴りかかろうとしても、僕は意識しか飛ばされていないからか、ただ見ることしかできない。

これは過去の事実。
これが、定められた運命……。

とでも、言いたいのか……!

「お父さん! 私のことなんか構わずにイクジスを倒して!」

清奈が悲痛そうに叫ぶ。

「倒して……イクジスを倒してーー!!」

動かない。
まだ停滞状態だ。

《セイナ》

「ジュール……はやく……して……」

ジュールと呼ばれた、清奈の父親がつけているタイムトーキーが言う。

《このような状況になろうとも、お前に傷を与えることを認めることはできない》

「え……?」

《私も、お前の父親も、お前を助けようと考えている》

「……だめ、そんなのだめ、時間が崩れさるんだよ……そんなの、見過ごせないでしょ!」

地面を強く叩く。

「そんなの……そんなの私の父さんじゃない!!」

2回叩く。
清奈は泣いていた。

「……清奈」

自らの父親は、まだ剣を振り上げない。

「どうしました? 結論は、急がなくても構いません。意を決するまで私は待ちますとも」

《……あの子の覚悟はできているぞ……》


「レザ……ラクティス……!!」

「お父さん……」

言って、清奈が少し微笑む。

「おや、流石タイムトラベラー。戦うらしいですね、一人犠牲ができますが」

構わない。
そう、口を開かずとも聞こえそうだ。

最後に清奈の父親は
清奈の目と合う。

「すまん……清奈!」

それが、正しい選択なのだから。

なかなか持ち上がらなかった剣が、今は問題なく。

それが、タイムトラベラーの誇り……!

それは、
悉く打ち破れられた。

「……なんてね」

確かに聞いた。
剣につきつけられている程距離が近いのだから。

「……っう?」

激しい歪みが、すぐ目の前で現れる。
視界が、眩む。

目の前に、真っ黒な穴。

「不可視空間……!」

清奈が、この後どうなるか理解した時にはもう遅かった。

「お父さ……!!」

闇が一瞬で筒みこむ。







再び視界が元に戻ったとき

「あぁ……」

あったのは、ジュール、剣だけ。

そして、声は聞こえない。

「さすがパルス。君にはいつも助けられる……」

「う……そ……!!」

もう父親の姿はない。
どこにいったか、清奈は分かっている。


「お生憎……ああ、この言葉を言うのは2回目だね……」

「閉じ込めた……?」

《その通り。イクジスに斬りかかった瞬間、展開したのですよ、彼はもういません。そのうち勝手に消え失せるでしょう……。これで、障害も無くなったわけです》

響き渡ったパルスの声は……普通ながら、慈悲は無く……。

「イクジス……まさか最初から……」

「いや、そういうわけではないんだ。今のはパルスが機転を利かしてくれたんだよ。屈すればそれでよし、襲いかかったら閉じ込め……ああ! 確かに最初からハメるつもりだったのかって、疑問に思うのも無理は無いかな」

……笑っている。

《さて、イクジス。セイナはどう致しますか?》

「え……?」

「ボクとしては、この子は生かしておいても構わないと思うけど……やっぱり、そうも行かないかな」

言った瞬間、

僕の意識は途切れた。








再び辺りが真っ暗になる。
これでハッキリした。
イクジスは、やはり清奈を大きく変えたということ。清奈の両親は、もういなくなったということ。
前に見た清奈の肩の傷は、やはりその時のものだと言うこと。
パルスが、イクジスのタイムトーキーだということ。

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