side story


[34]時を渡るセレナーデ -28-



「くっ……! だいぶ数は減ったはずだが……」

『敵が多過ぎるだけだ。二八秒前に四二七体倒したぞ』

「じゃあ残りはだいたい四千五百か?」


 ひたすらアサルトライフルのトリガーを引き続け、如月は“うみしお”に近付く敵を迎撃している。






 まだ三十分にも達していないのに、既に五百体近い数を打ち倒していた。



 それでも敵の陣形は崩れず、健在に見える。


『こちらブリッジ。如月耀、DSDの発進シークエンスが発動した。保つか?』

「こちら如月。保たせます」

『了解。最終フェイズ移行後、お前もDSDに搭乗しろ。番号は三番だ』

「了解しました」


 艦長からの無線にそつなく応じると、如月はすぐさま念話でネル達に呼び掛けた。


『どうしたんですか、耀君?』

『何か問題でも起きたのかしら?』

『ネルに清奈か……。DSDの割り振りは済んだか?』

『一応済んだよ、如月君』

『一番が相沢君と私。二番が先輩。三番がネルちゃんです』


 如月の問いに、悠とハレンが答える。




 それを聞いて如月は少し難しい表情をすると、


『DSD発進確認後、俺は直接古墳島へ向かう。ネル、清奈、単独で大丈夫か?』

『大丈夫よ。あまり見くびらないでほしいわね』

『私も大丈夫です。耀君、無茶しないでくださいね?』

『分かっている。だが下手にいじって壊すなよ。ネル、これが終わったら詫び代って事で何でも言う事を聞いてやる。覚悟してろ』

『はいっ……!』


 如月はとんでもない事をにべもなく言ってのけると、すぐさま戦闘に集中し始める。




 今度は左手にアサルトライフル、右手にあの狙撃銃だ。

 左手の武器で迫り来る雑魚を撃ち、右手の銃であの不気味な半魚人のネブラを狙う。


「左目のサポートシステムがあってこそなせる技だな」


 こんな複戦術が扱える事に感心しながら、如月は同時に両方の引き金を引いた。




 左では無数の魔力弾が縦横無尽に飛び、右では指揮者のネブラを狙い撃つ。


 それに負けじとオレンジの鱗を輝かせて、ネブラが加速して向かって来た。
 そしていつの間にか視界の範囲に現れ出でた。


「お前が指揮官か! 俺は如月耀! 貴様は何者だ!」

「我が名…イビル……。邪を蝕む者……排除するのみ」

 水中だからだろうか、ひどく低音の声が、巨大なスピーカーから出てくるような振動感があった。
 だが不気味に光る鱗は戦う事を嬉々としているかのようだ。




 如月は問答無用でイビルに狙撃銃とアサルトライフルを向けた。


「ならば貴様の夢もここまでだ」


 トリガーが引かれ、無数の強力な攻撃がイビルを襲う。
 一通り撃ち終わると、如月は間合いを空けるためにすぐさま後部露天甲板へと場所を移る。




 この潜水戦艦でもっとも高い場所にあるブリッジの上はなかなかに眺めが良かったのだが、と如月は思ってもいない事を考えて後ろを振り返った。



 イビルはいきなりの不意打ちで出遅れているようだ。だが、あの移動速度は尋常ではない。
 水中戦に特化したからこそできる素早い移動方式なのだ。





 チャンスは一度だけ。








 一撃必殺を撃ち込むのは弱りに弱った瞬間なのだ。


「間合いさえ取れば勝機はある」


 左手がトリガーを引いた。



 直後、魔力の塊が無数の凶器となってイビルの巨体を襲う。


『こちらCIC。“うみしお”の装甲板ひっぺがすつもりか! 無駄弾つくんな!』


 突如如月のインカムに男の怒鳴り声が入った。
 如月は軽く眉をひそめると、いつもの冷めた口調で、


「死にたくなきゃその口しっかり閉めろ」

『はっ! 調子に乗るなよ!』


 男との通信を終えると今度はブリッジへと繋げた。
 用件はもちろんDSDの準備状況の確認だ。


『こちらブリッジ。現在、DSDは一番より順次ファイナルフェイズへ移行。そちらの状況をどうぞ』

「こちら如月。目標、敵指揮官と露天甲板にて交戦中。少し厳しい」

『了解。一番射出まで二十秒を切りました。なお炉心温度が上昇中です。魔力の濃度拡散には警戒してください』

「分かった」


 如月は通信を終えると、イビルへとアサルトライフルを向けた。




 イビルはその不気味な輝きを一層強めてこちらを睨んでいる。

 軽く嘆息すると、唸るような声が聞こえた。


「お前……なぜ味方する」

「……答える義理はないな。即刻この舞台から退場してもらう」


 その時ゴゥン、と船底から何か金属どうしがぶつかるような音がした。
 それが何なのかに気付いたイビルはそちらに向かおうとする。が、


「そろそろこの幕も終わりだ」


 目の前を弾丸がかすり、行く手を阻まれた。


「逃しはしない」

「なら……お前、殺すだけ」


 イビルの目が異様なほどに輝き、如月はすぐさまその場から離れる。




 直後、さっきまでいた場所に渦が発生した。


 周囲の海水がその流れに加わって段々と成長していく渦潮に、如月は負けじとアサルトライフルの引き金を引く。


「チッ!」


 渦に引き込まれかけた如月は素早く甲板を蹴り、安全圏まで逃げる。
 その隙にイビルは船底へ素早く移動する。


「しまった……!」


 すぐに向かおうとするが、渦潮が壁となり迂回せざるをえない。






 それでも如月は船底へと急ぐ。





 一方イビルは“うみしお”艦底部の射出口の直下に着き、DSD二番艇の後部に回っていた。
「タイムトラベラー……これで邪魔は消える…………」
 両手に渦を作り出してイビルは艦から飛び出ているリニアカタパルトで加速しているDSDの推進機にその手を向ける。





 刹那、イビルの身体が後ろへと吹き飛んだ。







 何事かと混乱したが、体勢を取り戻すとすぐに結論に達した。




 二番艇が攻撃をしたのである。



 ようやく体勢を取り戻したころには脱出してしまったらしく、艦艇の姿は小さくなっていた。



 しかしタイムトラベラーが全員逃げたわけではない。





 あの巨大兵器に数人残っている。




 シヅキ様の脅威であるそのすべてを消すためには、動力を破壊する他手段はない。



 イビルは“うみしお”の最後尾に回り込むと、全身に力を集中させる。
 そして、溜め込んだエネルギーを両手から放った。


「遅かったか……!」


 如月は船底に向かったはずのイビルがいないことに気付き、後部の甲板に戻った直後だった。



 視界が碧い輝き一色に染まり、咄嗟に眼前で腕を組んだ。






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