side story


[32]時を渡るセレナーデ -26-



「艦後部より高エネルギー反応! 回避できません!!」

「総員耐ショック用意!」


 艦長が言うが早いか、直後に巨大な爆発と振動が“うみしお”を襲った。

「ぐぅ!」

「うわぁ!」

「チィッ!」

「きゃあぁぁぁああぁぁ!」

「くっ……! 状況報告はどうした!」


 艦長が怒鳴り声で命令を出す。
 揺れるなか、桜庭達は計器類やアームレストに必死につかまりながら各々の役目を果たし始めた。


「主要推進機が被弾! 第七ブロックより浸水を確認!」

「出力が六二.三%に低下! 補助及び予備推進機の出力最大!」

「メインエンジンが圧力上昇! 炉心温度が五千度を突破!」

「第五二番隔壁から第九八番隔壁までを封鎖、確認。浸水は被害レベルBを維持します」

「後部魚雷発射管、全て大破! 第三魚雷格納部より火災発生!」

「消火を急ぐとともに破損箇所の応急処置をしろ。攻撃した敵についての情報をただちにリサーチだ」

「了解!」


 艦長の的確な指示に従って桜庭達が動き出す。



 膨大な熱量の時点で敵の存在が検知されたという事は、相手はレーダーに検知されないステルス性能を保持しているか、あるいは……。


「敵性生命体に該当情報なし。対ステルス兵器用のレーダーにも映らなかった事から従来の敵ではないようです」


 桜庭が落ち着いた口調で報告をした。




 艦長は思わず苦い顔を一瞬見せるが、すぐにそれを隠す。


「やはりそうか。現時点をもって敵性生命体をNEBURAと断定! 第三種戦闘配置!」

「了解」


 桜庭がすぐに全艦放送で命令を伝達する。






 その時、緊急通信が入った事を示す電子音が鳴った。




 艦長の目の前に通信ディスプレイが浮かび上がり、如月が画面に映った。



『俺がネブラを抑えている間にネル達を古墳島へ行かせてくれ』

「分かった。だが現状を知っているな?」

『次に直撃をまともに食らったら沈没……それくらいは分かっている』

「ならば構わん。こちらも戦闘支援を行う」

『ああ。それと、俺のアイスコープとレーダーを同調させておいてくれ。そろそろハイエナが集まるはずだ』

「分かった。死ぬなよ」


 普段から無口な艦長にして珍しい気遣いだったのか、如月は一瞬虚を突かれた。


 だが不敵な笑みを浮かべると、通信を終えた。






◇◆◇◆◇◆◇◆






「こちら如月。全ての準備が整った。破損箇所から艦外へ出る」

『こちらCIC。了解』


 多少のノイズが混じっているが、いかつい男性の声がした。

 如月は改めて自分自身を見回す。





 ついさっき相棒のアストラルに水中でも陸上と変わらない、いや、それ以上の運動ができるようにするための魔法をかけてもらった。




 しかし外見は何も変わっていない。黒衣のコートのままなのだ。



 アストラル曰く、どうやら目に見えない程度の薄さで魔法障壁が展開されているらしい。また海水中の酸素を上手く取り込む事も可能だそうだ。


「全く……魔法は発展した科学技術かよ…………」


 思わず呟きたくなるのは、いつも隣にいるはずのパートナーがいないからか、単に理屈に合わないからか。





 固定観念から成立するものは理屈でも何でもないと結論づけると、如月は一歩前に踏み出した。




 背後の隔壁が封鎖され、目の前の隔壁が開いていく。
 大量の海水が如月を足下から襲いかかるなか、彼の身体はすぐに海水に隠れてしまった。


「こちら如月。これより幹部級ネブラを殲滅ないしは足止めする」

『こちらCIC。了解。通信状態、および同調率は良好なり。ただちに作戦を開始せよ』

「了解!」


 如月は左目の眼前にあるアイスコープで状況を確認する。




 今いる区画からだと、装甲板が大破している区画までは近い。




 魔法により強化された脚で軽やかに、素早く移動を始めた。






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