〜第5章〜


[30]夕方4時37分


なんだかんだ言って最後には助けてくれるんだろうなって思っていたら、やっぱり助けてくれた。口は少し悪くても、嫌な奴ではないことを知っているから。
後はエレベーターにこれを乗せて下に降りるだけだな。

――――――――――――

さすがにこれを1人で運ばせるのは可哀想だったかしら?
クローゼットは私が想像していたよりも重かった。
少し意義を唱えていたけど、なんだかんだ言って私の言う通りにしてくれる。
私のことを受け入れてくれているから。

『ありがとう清奈。マジで助かる』

……。
まるで、お礼が欲しくて手伝っているみたいじゃない。
私の……馬鹿。

――――――――――――

エレベーターの下のボタンを押し、僕と清奈はまたクローゼットを下ろした。

ハレンは腕に4つもカバンを持っている。
中に入っているのは服や日用品、そして辞書のように分厚い紺色のハードカバーが何冊か見える。

「来たみたいね」

エレベーターが開き、まず僕と清奈がクローゼットを中に置く。その後一度清奈が外に出てハレンが中に入る。ハレンが入ったことを清奈が確認し、中に入ろうと右足を前に出したところで
ブザーが鳴った。


「……あ、清奈」
「重量オーバーみたいですね……」

清奈は右足をゆっくり上げ、これまたゆっくり左足を前に出して乗り込もうとしたが。

ビーッと音が鳴る。

変に沈黙が流れる。

「なあ、清奈」
「なによ! 私が重いとでも言いたいわけ!?」
「いや、そうじゃないけどさってうぉっ!?」

清奈は僕の腕を強く引っ張ってエレベーターから引きずり下ろしたあと、すぐさま乗り込み「閉」ボタンを連打した。

「ちょっとそれはないぞ清奈!」
「階段で降りてきなさいっ!」

そのまま扉が閉まり、清奈とハレンは下へと降りていった。
僕はエレベーターの上にある数字の12を見つめながら、今度は心の底ではなく本当にため息をついた。






「ぜー……ぜー……」

下りでも12階から駆け降りるのはしんどい。
エレベーターを見ると、苦笑いのハレンと見るからに機嫌を損ねた清奈がいた。

「あれは仕方がありませんよ先輩。あんまり相沢くんをイジメないであげてくださいよ〜」
「うるさい。ハレンは黙ってなさい!」
「うぅ……すみません……」

おい、エレベーター。
お前は口も耳も持ってないかもしれないが1つ言わせてもらうぞ。
もっと根性だせよ、と。




さて、そんな次第もあったわけだが、ようやく引っ越しの積荷は完了した。車の中に家具とカバンを入るだけ入れて、残りはさっき清奈の言った瞬間移動で済ませた。清奈はフェルミがタイムトーキーの機能を私的に使うなと反対を受けていたようだが、「別にいいでしょ」と一掃し黙らせた。


僕の家には約20分程で到着。

「あ、清奈お姉ちゃ〜ん」

もうすっかり清奈になついた絵夢も手伝いに入り、作業はトントン拍子に進んだ。

僕がカバンを開けたら清奈の下着が沢山入っていて背後からカカト落としを喰らったことを除けば特に問題なく事は運んだ。

全ての作業が終わった頃には空の橙色が薄れ、雲一つない綺麗な夜空が広がっていた。

「これでおしまいですね!」
「や、やっと終わった……」

実質3時間か4時間ぐらいだったが、僕には3日4日に感じられるほど長かった。
こういう力仕事は、している間は平気なのだが、終わった途端疲れが出る。
どうやらその通りのようで、僕はそのままリビングで横になっていた。晩ごはんの支度が残っているが、休憩してからにしよう……。

というわけで、前進をソファに預けて僕がくつろいでいたところ

「冷たっ!」

額に何か冷たい物を押し当てられた。
目を開けると、そこに写し出された清奈の顔。

「ほら、いらないの?」

手にはイチゴが大きくプリントアウトされた棒のアイスがある。

「一応……お前も今日頑張ってくれたから、特別よ」

僕は少し笑って、そのアイスを受けとる。いつもの清奈にしては、気が利いている。

「買ってきてくれたのか」「別にお前の為じゃないわ。なんとなくそういう気分になっただけよ」
「なんでまたそんな気分に……」
「知らないわよそんなの。それより、わざわざ私が買ってあげたんだから、礼の一つぐらい無いわけ?」
「ああ、ありがとう。そんな怒らなくても……」

僕はアイスを袋から取りだし、うっすらとピンク色に染まったイチゴの氷菓子を見る。
その色はまるで、目の前にいる清奈の少し紅くなった頬のようだ。

アイスを口に入れる。
体が涼んでいく。
僕はアイスの右側をかじり、その後左側を清奈の口もとに持ってきた。

「食べる?」

我ながら、大胆な行動。

「なっ……!」

清奈は2、3歩ほど後ろに下がった。

「なっなな……何言ってるのよ! 馬鹿っ!」
「いらないのか?」
「いっ……いらないなんて……」


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