〜第3章〜 清奈


[30]2007年5月19日 午後3時35分


私は、その時間の流れに沿い、力を失っていく。

暑い……。

いよいよ防御壁の効果も薄れてきた。
定刻まであと3分も無い。
そして尽きたとき、私は焼け焦げる。

この状態を脱する鍵は……

一つ……あった。

最後の最後に見た。
いないはずのその鍵が、
目の前のドアを開けた。

幻だと思ったそれが、私の近くに走り寄ってくる。

まるで……

夢みたいな……温もりだ。



――――――――――――



何かの気配が僕の体に流れ込んだ。
決していい気分なものではない。それは不快を通り越し、恐怖心を植えつけられたよいな激しい寒け。
それはこの砂漠地帯のような高熱地帯にいてもなお感じた。
恐怖はより確実なものになる。
そして予感のレベルを越え、直感でもない

確信。

僕とパルス、2人ともが察した声。
2人が同時にそれがなんたるものかを理解する。
偶然?
否。
じゃあ……。

「パルス……!」

見える。
清奈の命の燭(ともしび)が……今にも消え失せそうだということに。

《ええ、ユウ。この気配は間違いありません。今すぐ向かわなければ清奈は………!!》
もう僕は止まることは出来なかった。
やっぱり僕は清奈に嫌われてでもついていくべきだった……!
例え役に立たなくとも、
逆に足手纏いになっても清奈の制止を振り切るべきだったんだ……!

「パルス。もう時間は残されていない。清奈が何と言おうが関係ない。そうだよな?」

《当然です。清奈の所に向かうのですね?》

清奈のいる場所はネブラがいる危険地帯。
だが恐れるわけにはいかない。
そこに……清奈がいればこそ。
止まる理由も無い。

「もちろんだ、パルス。ここから一番近い不可視空間を案内してくれ」

《了解しました》

僕はすぐに玄関へと向かい、パルスの導き通りに走っていた。
流れる汗を拭い、心臓が突然の長距離ダッシュに抗議をし始める。だがそれに構ってなどいられない。
灼熱の海に飛び込み、必死にもがく魚のよう。
でも僕はそこで死に絶えるような雑魚とは違う。
先の見えない水平線上を何度もひっかき回して着いてみせる。

待ってろ……。
僕がついてるから。
だからまだ僕の近くから離れないで。
僕は……清奈がこのままいなくなるなんて考えられない。
根拠はないけど清奈だってそうなはずだ。
《もう少し直進してください。次の角を左です》

パルスの指示に沿って更に進む。

おののくほど
倒れているこのネブラの犠牲者達。

清奈もこの光景を見てここを走っていたんだろう。

だが僕も、清奈も、

決して恐れない。

もっとも僕の場合は恐れるほどの気持ちの余裕が無いだけ。

それでもいい。

僕が恐れなければいい。

清奈が頑張ったぶん、
それと同じ、
いや、それ以上に。

僕は戦い抜いて見せる。



《あとはここを直進してください。左手の石像の土台か入口です》

すぐに見つかった。
異様な大きさの石像がたちはだかり、その土台だけで僕の背を抜いている。

「不可視空間、開放」

最初に清奈とハレンで行った通り、僕はそう言った。
時渡る為の扉が開かれ、同じように下へと階段が続いている。
すぐに僕は駆け降り、山積みになった本棚の部屋へと入る。

「清奈が時を渡ったのはいつだ?」

《2006年8月1日夜6時30分ですが、その時間に飛ぶのは危険です》

「なんで?」

《まだ6時30分の段階ではセイナは誰にも会っていません。その時にユウが現れると時間に大きな揺らぎが起こってしまいます》
「じゃあどうすればいいんだ?」

《フェルミから信号をキャッチした時刻は7時23分です。その時間であれば時を渡っても大きな揺らぎは避けられます》

「じゃあパルス。その時間に飛ぶコードを……!」

《了解しました》

パルスが僕の首から外れ、上へと移動する。

1分程度でパルスは戻ってきた。

すぐに本を開き、ページを捲る。
2006年8月1日
夜7時23分……。

あった。
37265*50だ。






やっぱり時を渡るのはいい気分がしない。
少し吐き気をもよおしかけるが、僕はすぐに立ち上がり、出口に向かい、階段を登る。

《ユウ。この先は超高温地帯になります。熱遮断の防御壁を取りつけます》

「分かった」

外に出た。
ここも2007年と同じく真っ赤だ。

《左です。観覧車の動力室にセイナの気配を感じます》

すぐに左に向かい真っ直ぐに向かう。
とても焦っていた。
僕でも分かる。
清奈が明らかに衰弱していることが、
タイムトラベラーである僕にしか分からない。
タイムトラベラーじゃない他の人達には決して分からない。
ということは、
清奈を助けられる人は僕だけ。

「お兄ちゃん」

不意に、
左側から声がした。

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