第三章 迷い〜そして戦場へ〜


[27]第六三話



 敵の首領とも言える人物、ヴェリミエッタが姿を消してから数時間が経った。



 迎えのヘリコプターで科学技術省に戻った如月耀は、ヴェリシル・ネルフェニビアを医務室まで見送ると、大臣執務室に向かった。


「やれやれ……敵はひとまず去った、と認識してもいいのだろうか…………」

「そう、思いたいですが。ところで父さ…いえ、大臣。事態の収拾はどうなっていますか?」


 如月の問いに慶喜は顔をゆがませた。

 そして革張りの肘掛け椅子から立ち上がって窓際に移動した。




 眼下に映るのは、瓦礫の山が積まれ、廃墟と化した都市。

 日没が迫っている今でも消防や救急、警察の関係車両やヘリコプターが入り乱れ、マスコミが様々な手段で取材を敢行している。


「これはもう、ガス爆発では言い訳できない。今夜の記者会見で公表するつもりだ」

「そうですか」


 如月の顔をちらりと見て、慶喜は少し複雑な表情を浮かべた。


「…………お前はネル君ところに行ったらどうだ?」

「はい」


 失礼します。と頭を下げて退室する如月。


「耀のやつがあそこまで憔悴するとは……これは想定外だったな」


 慶喜は扉が閉じられてから軽くため息をついた。




 そこへ秘匿回線からの通信が入り、慶喜の了承を得ずに勝手に空間ディスプレイが浮かび上がった。


 相手側の様子が映る部分は“sound only”と赤い字で表記され、背景は真っ黒だ。


『予想はしてたんじゃないのかしら?』


 声の主は随分と前に聞いたことのある妙齢の女性だった。


「まあ、な。魔力の共鳴状況から一応考えてはいたんだが……ここまでひどいとは、正直思ってもいなかった」

『そろそろ私の出番のようね』

「おいおい。つまらない冗談はよしてくれ。まだその時じゃない」


 慶喜は思わず頭をおさえていた。


「確かに君の若かりし頃……といっても今も十分若いが、時期が早すぎる」

『そうかしら? あの子たちはあちら側の世界に行かなければならないわ。それも今すぐに』


 慶喜のお世辞には耳も貸さずに相手側の女性は言った。


「…………分かった。ネル君が回復しだい、早急に召集させよう」

『助かるわ。それじゃあ今度会う時は久しぶりの対面ね』

「たまにはベルクの供養でもしたらどうだ? 今の状況を彼に伝えるべきだと思うんだがな」

『考えておくわ。それじゃ、後日会いましょうね』


 女性がそう言うと、慶喜は通信ディスプレイを閉じた。
 ゆっくりと深呼吸をする。


「ベルク……マティルダは立派に務めを果たしている。君の夢は、もうすぐ叶うぞ」






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