〜第4章〜 黒の男


[26]朝8時21分


少し時間に余裕が無くなってきたので、急ぎ足で直行する。

到着した僕と足立さん。

「瀬戸先生? いますか?」

電気が消えている。
ここにはいないのか?

「おお、入ってこい。どうした?」

随分と重い扉を開けた。

「えっと……その、体操服を貸して頂けないでしょうか?」

足立さんが言った。

「おう、また見ねえ顔連れて来たか相沢。モテるなあお前」

親子は似るもんですな。
昨日梓さんも言ってましたよ。
相変わらず無精髭を生やし、ヨレヨレの黒ジャージ姿で、昨日注意されたはずの喫煙を堂々と行っている。悪い大人の鑑だな。

「体操服か、ちょっと待ちな」

すると、奥にある扉を開けて中に入る瀬戸先生。
ゴソゴソと何かあさる音がする。

数秒後、段ボール箱を持ってくる。
乱暴にひっくり返し、中にあるものがドサドサ出てきた。

「少し埃っぽいな。大丈夫か?」

「あ……大丈夫です」

そう言って足立さんがジッと段ボールの中身を見る。

だが、中に入っているのは体育館シューズが殆んど、体操服は、上下一着しか無かった。

「すまん、これしか無い。サイズはいけるか?」

それを足立さんに投げてパスする。
「多分大丈夫だと思います。本当にすみません……」

足立さんが言う。

「次は気をつけろよ。あと洗濯してから必ず返してくれ。借りたまま返さねえバカもいるからな」

「分かりました、気をつけます……」

「それじゃ、帰ります」

そう言って僕はさっさとドアを開ける。タバコ臭いので早くここから出たかったからだ。


「あいよ、もうすぐ1時間目だ、急げよ。あと相沢」

「はい?」

「浮気は程々にしろよ」

はいはい……。





というわけで体操服に着替えるため、更衣室に向かう。

さっさと着替えて部屋を出る。

「相沢くん……困りました……」

ん?
足立さん、どうしました?
って
あらららら……

体操服が大きすぎたらしく、ブカブカだ。

もともと体が小さい方な足立さん、長袖からは指がやっと出てるぐらいで、上だけで膝上近いところまで隠れ、下はというと長ズボンの裾が地面を引きずっている。

「し……仕方ないよ。それしか無かったみたいだし」

「そ……そうですよね、うう……贅沢いっちゃ駄目ですよね……」


ここで
チャイムが鳴る。

「やば! 足立さん行きましょう」
僕はダッシュで、体育館に向かう。外が雨だからだ。

「相沢く……やぁ!!」


振り返ると足立さんは転んでいた。
裾を踏んでしまったらしい。

「うぅ……いたた……」

足立さんの天然ぶりはいつまで続くんだ……。




「おい、悠にぃ」

「何だ?」

自分の体が筋肉痛に苦しんでいるのに気づいた僕は、少しだるそうに言った。

「お前さあ……まさかとは思うんだが、絶対有り得ないと心の中で思ってはいるんだぜ。でもな、同盟を組んでいる以上、一応確認しとく」

随分と長い前置きだな。


「だから何の話だよ?」

柔軟体操として、長座体前屈(膝を伸ばして座って足の爪先を手で触るってやつ)をしながら聞いてみた。

「……さくらちゃんに告ったりしてないよな?」

……。
まさか、もうその情報が流れているとはな。
誰の情報網の仕業だろう?ここはどうするか。
正直に言うべきか?
……ここで嘘をついてもどうせバレるよな。


「いや」

「ほら、やっぱりな。悠にぃが抜け駆けしているわけ……」

と、ふっくんが言いながら固まっていく。

「……ん? すまん悠にぃ、よく聞こえなかった、もう一度言ってくれ」

二度も言いたくないんだが。

「だから、告った」

微妙な時間、沈黙が流れる。

「ん? ん? ん? すまねえなふっくん、今『告った』って聞こえたんだが」

「じゃあその通りなんだろ」

もういちど、沈黙。
この会話を聞いていたのか、遠くにいたはずの男子達までも止まる。


ふっくんは、
意外と冷静に、しかし真剣な表情で、ついでに驚愕な表情を交え、言った。

「詳細キボン」

顔が近い。
2秒後、他の男子が一点に収束。
そこから1秒後、その点が、グロテスクなオーラと共に奇妙に動き始める。

ちょっ……!

よく聞こえない。
お前ら、気持ちは分かるがな、少し落ち着……


ドスッ!!
ドサッ!!

という音だけを耳に残し、意識が……
あれ、途切れたらしい。




目が覚めたら何故か保健室で横になっていた。

僕はベッドで横になっていて、側には保健室の先生と、ふっくんがいた。

「よかった、気がついて〜」

保健室の先生がホッと胸をなで下ろす。
この学校で貴重な、客観的にまともな先生だ。
まあ、どうみても中学生ぐらいの大きさで童顔な点を除けば、の話だが。

「あの、すいません。何があったんですか?」


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