〜第5章〜


[25]2131年 時刻不明…


「お姉ちゃん見てみて! 4つ葉のクローバーだよ!?」

2131年……既にネブラによる世界の侵食は完了し、人間が存在できることは事実上不可能になった。
僅かに残された人間たちは、地中の中へと生活の場を移し、仮想世界の中に身をおいていた。
いや、【現実の】世界が失われた以上、仮想の世界が現実となった。

辺りには、自然も建造物も、そこで飛び回る蝶も仮想物体である。

そしてクローバー畑にいる2人の姉妹が持っている4つ葉のクローバーも所詮はレプリカ。

【真の】4つ葉のクローバーは触れることすら叶わない。

幸せを呼ぶのか分からない作り物の4つ葉に、2人は幸ある未来に想いをはせる。

姉とおぼしき少女と
妹とおぼしき少女。

より背が低い妹の方は、車椅子に座っていた。

「あ! 先に見つけられちゃった〜。エミィって4つ葉を探すの巧いよ〜」
「えへへ、まあね!」

そう言って妹が車輪を回し側の姉の元に向かう。
妹の方は黒髪で、姉の方は栗色の髪。

「いっつもエミィが先に見つけちゃうね」
「だって、私は4つ葉を見つける天才なんだからね!」
「あはは、それって天才って言うのかなあ?」
「言うもーん!」
「でも今度は負けないよ!」
「わたしだって! お姉ちゃんよりも先に見つけるからね!」

2人は笑顔をあちこち向けながら、クローバー畑の上を動き回る。

「あ!」

その後すぐに今度は姉が何か見つけたようだ。
両腕をグルグル回し、それを摘もうとしたが

「ちがった、3つ葉だった」
「お姉ちゃん慌てすぎだよ」
「う〜。これじゃあまた先を越されちゃうな〜」









よくこうして、夜遅くまで4つ葉探しをして遊んだっけ……。

彼女の記憶から浮かび上がった、エミィという妹と自分の姿。
なぜ、今になってその事を思い出すのか。
ハレンは何故か理解できていた。
そしてそれはステラも同じ。

偶然なのか、そこに4つ葉のクローバーがある。
そして、【2人の】姉妹がそこにいた。

ハレンは気づいていない。彼女が地に生えたクローバーを見下ろしていて
そのすぐ側にいたもう一人も見下ろしていた。



その子が4つ葉を取ろうとしても、手がすり抜けてしまう。

猫の声。

「お母さん……ハレンも成長したね。でも、いいよね?」
かつての姉の姿が、重なり合わさった。

その黒いドレスを着させられた人形は
洋服ボタンのように縫い合わされた瞳で何を想う?

「ねえお姉ちゃん、4つ葉を探すより、もっと愉快な遊び、しよ?」





「ステラ、もし近いうちに」

ハレンが教室へと足を動かす。
彼女らしくない怪訝な表情を浮かべながら。

「エミィが来たら、なんて謝ったらいいのかな……」


ステラは沈黙を保つ。
タイムトーキーをスカートのポケットに戻した。
そのまま何もなかったように薄暗い表情から、にこやかなハレンらしい顔立ちに戻った。

「さてさて、教室に戻るといたしますか」

独り言を呟き、ハレンは下足ホールへと走って向かうのだった。








「え〜ですから〜この三角形の重心は〜このよ〜に〜なるので〜す」

やたら「〜」の文字が入っている理由を言えば、今の授業は、オペラ歌手になるべきだった大泉先生の数学の授業だからだ。
本当に、なんで音楽にならなかったんだろう。
起きていてもまるで集中できない。

「それでは〜今日は〜ここ〜まで〜」

1曲を満足に歌いきったような爽やかな表情。
そんな自己満足な授業されても生徒は困るんだが。
当然だが、歌い終わって拍手が起こった試しはない。

そのまま諸連絡に入り、もうすぐ放課後になる。
それと同時に僕は教室から出られるように荷物等々を準備する。

チラッとさくらちゃんの方を見ると、さくらちゃんの方も僕を見ていたらしく微笑みを返してくれた。

さくらちゃんスマイル!
ああ、もう今日は最高!
プールの時には色々あったけどさくらちゃんと2人きりで……はぁ〜

「悠、聞いてる?」

ハッと我に還る。
清奈がさっきから僕の名を呼んでいたらしい。

「な、ななななんだ清奈」「何をそんなに動揺してるのよ?」
「いや、なんでもないんだよこれは、ははは……」

苦し紛れに笑って誤魔化してるのが丸見え。

「それよりも……先に正門で待っていてくれない? 私今日は掃除当番みたいだから」

え?
待つって何を?

「え、何の話だっけ?」

と、思わず口が滑ってしまった。

「馬鹿。約束したでしょ! 昨日家の掃除を手伝う代わりに私の引っ越しを手伝ってもらうって」

あっ……!
ウカツ!
ということは……?

「分かった? それじゃ私も後で行くからね」
「おい、ちょ……ちょっとま……」

そう言って清奈は行ってしまった。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.