〜第5章〜


[24]昼12時39分


「今はいないって……もしかして、フラれちゃったとか?」
「いや〜フラれたっていうか……その〜わたしがフッたんですよ」
「ええ!? 意外だな。ハレンって誰とでも上手くやっていける気がするんだけどなあ」
「そうですか?」
「だって、僕がタイムトラベラーになる前から、仲間を嫌がっていた清奈がハレンと行動してたじゃないか」
「あれとは別ですよ」
「そうかなあ?」
「ああ、それより食堂へ行きませんか? わたしお腹がすいてきちゃって」
「おっと、僕も食堂に向かう途中だった。じゃあ行こっか」
「はい!」


下足ホールから出た。
ハレンは両腕をグルグル回し、食堂がある左に向かって歩いた。僕もそれについていく。




この時、悠は2つのことに気づいていなかった。

1つ目。
ハレンは両腕を回し、とても元気そうな素振りを【見せていた。】
一瞬だけ、だが


光り輝く笑い顔が曇っていた。


2つ目。
その2人の後ろからついてくる者が一人。


「クスクス……」

肩に乗っていた白猫が地に下りて、少女の少し前を歩いている。
その黒く小さなドレスを纏う少女はというと、何が可笑しいのか、密かに笑っていた。
「そうだったよね……あの時にいたよね。ハレン」

未だ彼女は輪廻の外。
世界に存在していないから、誰も見えないし誰も聞こえない。

だから誰かに投げ掛けた言葉でもない。

「ねえ、お母さん」

白猫が喉を鳴らして、彼女の方を向いた。

「クスクス……」










「借り、返してもらわなきゃね」











なんとか混雑は免れた。
昼休み、ここは大量の人に溢れかえるらしいが、僕とハレンが食堂に着いた時には、食券の券売機の前には3人だけ。

そういえば、食堂はこの高校に入って初めて利用する。
周りの人は、見栄をはってか毎日食堂でうどんをすすったり、アンパンを買ったりしているようだが、僕はあまりそういうことをしない。家事をやってると食堂で何か食べるのは金の無駄なように感じられるからだ。とまあ叔母さんめいた話は置いといて……順番が回ってきた。

ハレンはカレーライス、僕はカツ丼の食券を買い、そのまま厨房の前に券を置いた。

【フローズン始めました】という張り紙が券売機の隣にあった。



すぐに注文した料理は出来上がり、受けとって適当な座席にハレンと向かい合って座った。
「いただきま〜す」

ハレンは早速スプーンを手にとって食べ始めた。

《カレーって……おいしいの?》

ボソッと聞こえた声。
久々にステラの声を聞いた。

「ん?」
《ステラ、珍しいですね。貴方が何気無い会話に口を開くなんて》

僕とパルスが声を漏らした。

《まあ……ね》

「どしたの? ステラ」

ハレンも少し不思議に思ったらしく、タイムトーキーが入っているのだろうスカートのポケットの方を見て喋った。

《ハレン……何かに、気づかない……?》
「気づく?」
《なんだか……いや、なんでもない》








「あはは、ステラったら、変なの〜」
《……》

《私は、特に歪みは感じられません。気のせいじゃないですか?》
《そう……かな》

どうしたのかな、ステラは。
何か、言いたそうだったけど……。
気のせいだよな?


僕は割り箸を割って、特に気に止めずカツ丼のご飯を口にほおばった。







「ふう〜それじゃあ相沢くん、わたしは教室に戻りますね」
「うん」

昼食を済ました僕たちは、食堂から出てハレンと別れを告げる。
そろそろ昼休みも終わる頃。午後からの授業、がんばりますかっと。



「ねえ、ステラ」

教室に戻ると言ったハレンだが、別の場所にいた。

「さっきのこと、もう少し聞かせてよ」

辺りに誰もいないことを確認した後、ハレンはポケットからタイムトーキーを取り出した。

《……嫌な、感じがするんだ。分からない?》
「よく分からない。でも、ステラの言いたいことは何と無く分かる。でも……わたしはまた逃げないと……」

この時間から逃げたい。
しかしそれは悠や清奈と別れなければならない。

《どうしよう……ユウやセイナに相談しないと……》

ハレンは
少し考えた後
首を横に振った。


「いや、このことは相沢くんや先輩には関係のないことだから」
《そんな……》
「ステラ、これはわたし1人で何とかしなくちゃいけない問題だよ?」
《……そうかな……》
「それに、自分のケガレは自分で洗い流さなくちゃ。

いくら仲間がいても、こればかりはわたしだけで頑張らなくちゃいけないもの」


《……》

ステラはそれ以上、何も言わなかった。

ハレンはゆっくりと自分の腕を回した。
ハレンが地に目を向けると、そこには

「あっ……」

4つ葉のクローバーがあった。

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