本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[24]chapter:7-2
辺りは暗くなり、気温も寒くなってきた。
ヴァンは焚き火で手を暖めながら、器から蒸発して出た蒸留水の水を別の器に移した。
「できたぞ」
ラルは森で取ってきた山菜とキノコで作ったスープをヴァンに渡した。
「あああ!は..はい!」
ヴァンはぎこちない感じでラルから器を受け取った。
ヴァンは器を持ったままラルから目を背けた。
「なんだ?食わないのか?」
「え?いや..た、た、た、食べますよよ...」
「何をうろたえてるんだ?さっきのことまだ気にしてるのか?」
ラルに「さっきのこと」と言われ、湖の出来事が頭を過ぎる。
「え!?いや!な..なにも見てないです!ホントに!!」
──ホントは全部見ちゃったけど……
「…別に見られても減るもんじゃないだろう...」
ラルはしれっとそう言った。ホントに恥ずかしがっている様子がない。
ヴァンは女性にあまり免疫がなく、一瞬女性はああいうことで動じないものなのかと思ったがすぐ「そんなわけない」と一蹴された。
ヴァンはラルの方を向かないようにしながら、スープを口に運んだ。
「ハァ...初日からこんな..ん?」
ほどよい甘さ。山菜には苦味が少なくスープに溶け込み絶妙な味わいを出している。そしてそこに加わるキノコがまた味を重ね、口の中に一気に味が広がる。
「お、おいしい...こんなおいしいスープ食べたことないです」
「そうか?」
ラルは相変わらず素っ気ない。
「いやホントにおいしいですよ!
僕、料理とかできないから..こんなの自分で作れたら..いいな...」
「作り方を学べばいい」
「え..まぁ、そうですけど...僕、向いてないだろうし...」
ラルはスープを混ぜながら落ち着いた表情で話しだした。
「ヴァンくん...この世は見向き不向きじゃない。できるできないでもない。
やるかやらないかだ。人間ができると証明されたものは誰でもできることだと私は思っているよ」
ラルの言葉は実にシンプル、そして奥が深かった。
「ぼ..僕にもできるでしょうか...」
「できるさ...あと必要なのはは根拠と努力と挑戦心..人は学ぶことにおいて歩みを止めてはいけないよ」
「..挑戦心...か...
...じゃ、じゃあ、ラルさん、ぼ、僕に料理を教えてくれませんか?」
「なに...?料理?」
「はい!」
「...ま..まぁ別にいいが...」
「...?」
ラルの顔が少し穏やかになったような気がした。
「ラルさんは食べないんですか?」
「私は...食欲がないからな...」
「あぁ、ダイエット...」
「早く食え!!」
「は、はいぃッ..!」
食事も終わり、ヴァンは皿を片付けはじめることにした。
「あの、ラルさん...」
「ん?なんだ?」
「明日も今日のような特訓をするんですか?」
「なんだ。もう根をあげたのか?」
「い、いえ!違いますよ!」
──...全然って言ったらウソになるけど……
「あの、本部に早く行かなければいけないって言ってたではないですか...それなのに...」
「なんだ、そのことか」
ラルは水を口に一含みし、続けた。
「ヴァンくん、『言ってた』ではない。そこは『おっしゃってた』だ」
「あ、は、はい..すみません...」
「..そこは『すみません』じゃなく...って、話が進まんな、これじゃ。
本部には汽車で行く」
「汽車?」
ヴァンは身を乗り出した。無理もない。小さくド田舎のカルナ村で育ったヴァンには汽車などというものは縁がまったくなかったからだ。
「そうだ。ここから西に二日程歩いたところに、『グリムシティ』という大きな市がある。そこの汽車を使えば本部のある『トゥーワイズ』に半日で着ける」
「トゥーワイズ!?あのトゥーワイズですか!?」
ラルは耳をおさえた。
「あ、すす..すみません...!」
「いや、無理もないだろう...というより君には教えなければいけないことがたくさんあるからな...君も聞きたいことがたくさんあるだろう...」
「は..はい」
「まずは『国軍』と『ユスティティア』の関係について話さないとな」
「へ?...『国軍』と...『ユスティティア』の...関係?」
ヴァンは頭の上に「?」の文字が浮かんだ。
「あの..よく分からないんですけど...『ユスティティア』は国軍の名前なんですから関係というのは...?」
「『国軍』=『ユスティティア』、それが一般的な国軍への見解だろう...だが実際には違う」
ラルは真剣な表情をして続けた。
「ユスティティアは人々の禁忌を防ぐためにあると、私は君に教えたよな?」
「は..はい、あの夜の時に...」
「...『ユスティティア』というの名は、『国軍』の中に存在する一部の組織のことを指す」
「...?」
ヴァンはまだよく理解ができない。
「まぁ、一部というかもっと簡単に言うと、『国軍』の中には禁忌を防ぐべく戦う『ユスティティア』と、国軍戦力及び治安維持のための『アーミィ』という二つに別れる。まぁ国民が一般的に考えているのは後者だろうがな」
「はぁ...だいたい分かりました...けど、何故一般的に『国軍』は『ユスティティア』という名前で知れ渡っているんですか?」
ラルは少し黙った。
「...それは、『国軍』の歴史に関係する。別に今知らなくてもいいことだ...」
ラルの顔が少し険しくなったように感じた。
「あと、分かっていると思うがユスティティアも国軍である以上、階級がある。つまり上下関係が出てくるわけだ」
「は、はい...」
「君には言動及び、礼儀作法を学ばなければいけない、まぁそれは軍に着いてから学ぶしかないな...」
「色々勉強することがあるみたいですね..」
「ちなみに私の階級は少佐だ」
「少佐...ラルさんって...年いくつですか?」
「私は22だ」
「22...その若さで少佐ってすごくないですか?」
「..まぁ..国軍で言ったら異例だが...ユスティティアにおいてはそれほどでも...いや、それでも異例か...」
「...?」
「国軍に入ったものはその時点の年齢に関係なく階級は『新兵』から始まる。異例はない。
だが、入軍時に『ユスティティア』に入ったものはどの場合にも『少佐相当官』の地位が与えられるんだ。つまり地位は『大尉』」
「そ、そうなんですか!では、僕も最初から少佐相当官ということですか!?」
「まぁ、そうなるな」
「うわぁ...」
ヴァンは歓喜したが、すぐシュンとなった。
「で..でも試験に受からなければ...意味ないですよね...」
「多分大丈夫だろう」
「へ?」
ラルのあっさりした返事にヴァンは戸惑った。
「な..何故ですか?..実技試験があるんですよ...?..僕なんかじゃ..とても...」
「実技試験は二つのグループに分けるための試験に過ぎない」
「え...?二つのグループ...?」
「ユスティティアはある理由で『東』と『西』の二つのグループに分けられている。別に対立してるわけではない。効率のためだ。実技試験はその選別のために行う」
「で、でも!今日ラルさんは特訓の時に『いまのままでは実技試験すらままならぬ』って言ってたじゃないですか!」
「それは、そう言った方が練習に身が入ると思ったからだ」
ヴァンは全身の力が抜けてしまった。どうやらラルには試しグセがあるらしい。
「ヴァンくん、言っただろう?君は神の領域に踏み入れられる選ばれた人間だと」
「は、はい」
「反物質にさわれる人間は少ない。その人間をまたふるいにかけていたらユスティティアは壊滅してしまう。ただでさえユスティティアは少人数なんだ...」
何かが気になる。
ヴァンはそう感じていた。
ラルの話には何か違和感がある。でもそれがなんなのかヴァンはこの時は、まだ、気づけていなかった。
「反物質にさわれる人間は希少だ。だからこそ最初から少佐相当官という地位が与えられる」
ラルは水をまた口に一含みした。
「だいたいのことは話した。何か質問はあるか?」
「...質問...一つだけ...」
「なんだ?」
「兄さんが言ってた、『ウロボロス』ってなんなんですか?」
「..ウロボロス...」
ラルは神妙な顔をした。
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