〜第3章〜 清奈


[22]2007年5月19日 午後3時21分


もう目の前に食堂が見えてきた。あともう少し。あともうちょっと。だから……さくらちゃん頑張って……!

瀬戸さんが食堂の入り口のガラス製の扉を調べるが

「鍵がかかってる」

瀬戸さんが言った。
そんな!
このままだと皆が……

「こうなったら!」

瀬戸さんは落ちていた石を拾いドアにおもいっきり投げつけた!

ガラスが割れて、そこから瀬戸さんが手を入れて鍵を開ける。

「入って!」

皆が一斉に食堂へと入る。
「なるべく奥に行くのよ! 光が届かないぐらいの奥に入って!」


こうして1年5組は全員(清奈を除き)食堂の中に避難できた。窓のカーテンを閉めて光を遮る。幸い中には誰もいなかったので無断で飲料水と氷を確保できた。真っ先に僕は氷のうを作り、さくらちゃんの額に当てた。クーラーも入れたいのだが作動しないし、外ほどではないがやはり暑いことに変わりない。だからまだ安心できない。
さくらちゃんも依然衰弱していて、とにかく脱水症状を防ごうとありったけの水を持ってきた。タオルを水で濡らし首筋に巻き付け、今うちわの代わりになるものは無いか食堂を探し回っているところだ。

「相沢。あたしが代わるわ。だからあんたは休んで。」
「言ってる場合か。瀬戸さんこそゆっくり休んでいてよ。瀬戸さんに倒れられたら誰が1年5組を引っ張るんだよ?」
「倒れやしないわよ。あんたこそあの灼熱の中でさくらをおぶったんだからヘトヘトじゃない。あたしはもう十分休んだからあっち行ってなさい」

瀬戸さんがさくらちゃんの所に駆け寄る。そして額に手を当てる。

「まだ熱いわ。どうすれば……そうだ!」

すると瀬戸さんが立ち上がった。

「相沢。さくらに肩貸してあげて」
「分かった」
「立てる? さくら」

さくらちゃんは僅かにうなづいた。

僕がさくらちゃんの右手を、瀬戸さんが左手を肩に置きゆっくりと立ち上がる。
なんとか歩けるまでは回復したようだ。

「どこにつれてく気だ?」「すぐとなりの部屋よ。狭いけどあそこが一番涼しいの。多分あの部屋だけ外がおかしくなるまでずっとクーラーがついていたんだと思う」

距離は数メートルだ。なんとか歩ききってまたさくらちゃんを横にする。

「さくら。聞こえる?」

瀬戸さんがさくらちゃんに話しかける。

「きこえる……」

小声で答えるさくらちゃん。

「何かしてほしいことある? 体冷やしてほしい? お水飲みたい?」
「はあ……はあ……ぁ……。」

「何でも言っていいから。何かしてほしいことない?」
「……」

しばらくしてからさくらちゃんが口を開ける。

「ふ……く……」

え?

「あ……つい……」

さくらちゃん。それは……。

服を脱ぎたいってことでしょうかぁっ!?

「服? 分かったわ」



ぅおぃ!!

ちょ…ちょっと待てぇ!
瀬戸さ…

僕は約5秒ほど動けなくなる(なんなんだこの5秒はっ!)

ていうか瀬戸さん脱がすの早やっ!
そこまで脱がしたら、脱がしたらーっ!
これ以上ここにいてはならーーーん!

やっと僕の足が動きだしその場を離れる。どうやら2人とも側に僕がいることを忘れていたらしい……。

下着が一瞬見えてしまった……。違う!あれは不可抗力な訳で決して見たかった訳ではなくて、5秒間足が動かなかったのは神の悪戯であって決して悪意はぁーー!

落ち着けー落ち着けー

はあ……はあ……。

ただでさえ熱いってのに……。

僕はフラフラの足をなんとか動かして皆がいる部屋に向かった。



「ふっくん、大丈夫か?」

僕はふっくんに話しかけた。屋内だからかマスクや眼鏡を外している。

「ああ、まあ大丈夫だ。
それにしてもどうして急に気温が上がったんだよ? 世界じゅうがこんな騒ぎになってるのか?」

僕はこの公園の中だと思っているが、絶対にそうだという確証は無い。ふっくんの言うように世界じゅうがこんな騒ぎなら……!

「……おい。お前長峰さんどうしたんだよ? さっきから見当たらないんだけどさ、まさか置いてきたとか……?」

清奈は今ごろネブラと戦っているだろうが、こんなことふっくんに言えるはずもない。

「え〜と……あいつは早退したよ。親に迎えに来てもらってた。だからこの公園にはいない」

「そうか。なら……いいんだけどよ」



今ごろ清奈は皆の為に必死で戦っているだろう。今できることは清奈の身を案じることぐらい。何度も感じていることだが、本当に情けない。

僕は一度皆がいる部屋を出て、誰もいない廊下に出る。
辺りを見渡して誰もいないことを確認してから、ポケットからタイムトーキーを取り出す。

「……パルス」

《何でしょうか》

「清奈の様子は分かるか?」

《先ほど時を渡ったところです。もうこの時間にセイナはいません》

「そうか……」

僕とパルスの間に沈黙が流れた……。

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