〜第5章〜


[21]時刻不明 無刻空間…


一面に渦めく闇の中で、青く輝く物が一対。
輪廻の外――
その輝きは失われることが無い。コツコツと、固い地に足を踏み鳴らせている。古ぼけた横に長い、ベンチのような椅子に座っているのは、まだ年も若い男。左目と右頬に、えぐられたような深い傷を残す。

足の音だけが聞こえる。そのせいで、その場の静寂がより一層感じられる。

その男の隣で

すやすやと規則正しい息をして眠りについているのは、あのオーバーオールの少女だ。

「様子はどうだ?」

その男の背後にある、古めかしく傷んだ木でできた扉が開いた。
その声は、力強さを表すたてがみを持つ者……。

グルームだ。

「見て分からないか?」
「ふ……相変わらずの減らず口だ」
「子守りは俺の性には合わない……」

銀色の前髪を手で押し上げた。そのまま男は両手を後頭部へと回し、足を組んだ。

「相沢悠……奴の進歩は目覚ましい物があった。よもやあの短時間でこれほどの成長を遂げようとは……」

あの有山での戦いでは、何も出来なかった男が、ネブラにとって驚異の存在になるのは時間の問題だった。

「だからこそ、俺を生んだのだろうよ。しかし……いかに成長しても」
銀髪の男が立ち上がり、机の上にあったピーナッツを手に2、3粒取った。

「所詮は、紛い物の力だ……」
「……そうか」

グルームは、腕を組み、相沢悠を今後どうしていくか思案している。

「そもそもパルスは」

銀髪が1粒のピーナッツを上に放り投げて口に入れる。

「シヅキ様のものだ。記憶を失ってしまっただけならば、思い出せばいい」
「ふふ……シヅキ様のタイムトーキーであった頃よりかは、可愛げが増したように感じられるがな」
「なら、パルスがお前をフィアンセとして選んでくれるよう、適当に祈ってやろうか?」
「茶化すな」

ガリ、とピーナッツを噛み砕き、2つ目を口に入れる。

「で、グルーム。何の用だ?」
「私が貴様の嫁になってもらうよう必死に祈っている者が洋館で待っているそうだ」

銀髪はグルームに背を向けたまま、後ろにおもいっきりピーナッツを投げた。

「っつ……ククク……」

グルームが意地悪く笑う。

「あの馬鹿女か。断る、とだけ伝えておけ。あとグルーム、ソディアックでも何でもないお前が俺を侮辱するな、次言ったら消す」
「それは……すまなかったな。ルネス」

と言いつつ、まだ笑い声を漏らしていた。
「ああ、そうだ。もう一つその子に用があるのだが」

グルームは、いまだ眠るオーバーオールの少女を見た。

「起きろ」

銀髪が少女の肩を叩いて起こす。

「う……ふ……あぁ〜」

盛大なあくびをした。

「シヅキ様が貴様に渡したい物が有るそうだ。すぐに向かえ」

その用件だけを伝え、グルームは部屋から出た。

「お父さんが……? わかった。今行くよ」

そう言って、ピョンと跳ねるように立ち上がり、トテトテと小走りして部屋から出ていった。

「……」

一人になった銀髪の少年。名はルネス。
再びピーナッツを手に取り、口に入れた。
青く黒き渚……。
その者は、
相沢悠を輪廻から抹殺する、その目的の為だけに生まれた男である。

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