第41章


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「そうは言っても、先ほどの戦いの時、何だかマニューラさん調子が悪そうだったじゃないですか」
 ロズレイドの指摘に、マニューラの目が一瞬だけ泳いだ。
「別に調子なんて、ありゃ、その何ていうか……」
「もしかして蜘蛛が苦手、とか?」
 言いあぐねるマニューラに、ぼそりとロズレイドは思い当たる節を口にする。
マニューラは微かに息を呑み、突き放すようにロズレイドから離れた。
「ばっ……バカヤロウ、そんなわけねーだろうが。このオレ様を誰だと思ってやがる。
天駆る竜さえも避けて通る天下無双のマニューラだ。あんなクソッタレ蜘蛛如きを恐れるわけがねえだろ」
 どんと胸を張り、マニューラは堂々言い放った。その時、不意に頭上の枝葉が風も無いのにばさばさと音を立てる。
「ん? ぶわっ!?」
 不審に思って二匹が仰ぎ見た瞬間、葉の隙間からぽろりと力なく零れる様に落ちてきた影が、
丁度よくマニューラの顔面へと覆い被さった。
「一体、なんら――」
 驚いて”それ”を引き剥がそうとしたマニューラの手が、急に怖じけたように寸前でぴたりと止まる。
この節くれだったような、それでいて変に軟らかい感触――。脳裏に鮮明に蘇ってくる、幼い時の悪夢。
マニューラは顔に張り付いている”それ”の正体に気付き始め、みるみる内に顔を青ざめさせ、
全身の毛を突風に煽られた黒い波の様にざわざわと怖気に震わせる。今まで堪えて来たものが
大挙して押し寄せ、次の瞬間、絹を裂くような悲鳴が森に轟いた――。

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