本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@
[31]chapter:8-5
奇跡的に乗客全員怪我はなく、無事に解放された。
車内にはヴァンとラル、フェイロン、そしてエドワード准将が残り、犯人達を縄で縛り上げ監視することになった。
警察はまだ来ていない。人質にとられたばかりで悪いが、駅長には乗客が一人も外に出ないように外で見張るように頼んである。
まったくあわただしい日だ。
そして最後の最後に驚いたのがこのエドワードというおじさん。
「まさかこの列車に乗られているとは思いませんでしたよ、エドワード准将」
「ラル、私はもう准将ではないんだ。その呼び方は止めてくれないか」
エドワードは謙遜しているわけでなく、平然な顔でそう言った。ヴァンは疑問がありすぎて口を開いてしまった。
「あの、ラルさん..この方は...」
「ああ、ヴァンくん。この方は4年前まで国軍のアーミィで准将をつとめていらしていたエドワード=ウィリアムズ准将だ」
「...准将は止めろ」
エドワード准将はところでこいつはなんだ?という目でヴァンを見ている。この身長差からだとヴァンから見るとエドワード准将は圧巻に見えた。
もともと持っていた異様な威圧感が「准将」という言葉によって、さらに威厳を感じる。
ヴァンはエドワード准将の視線にたえきれず、目を横にそらした。早くラルに自分のことを説明して欲しい。
横を見た先に丁度捕らわれた犯人達が目に入った。犯人達の前でフェイロンが興味津々でジロジロと見ている。
どうしたらあそこまでマイペースになれるのか...。
「ヴァン...だったかな?」
突然エドワード准将に名前を呼ばれ、ヴァンはビクッとしてしまった。
「は、はい!」
「かしこまらなくていい...。ラル、この子は?」
「この子は...」
妙な間が開いた。ラルが言葉を途中で止めたのだ。ラルの顔には何か動揺が見える。
「新しい『ユスティティア』の隊員、ヴァン・シルウァヌスです」
「...ユスティティア...?」
「すみません!今、警察の方が着きました!」
駅長が汗だくで叫んでいる。改札口から急いで走ってきたのだろう。ホントに運動が苦手らしい。
半分死にかけている。
「そうか、では私の役目は終わりだな」
エドワード准将は冷静な口調でそう言った。
ヴァンは何か違和感を感じた。
先ほどラルにヴァンの紹介をされた後、エドワード准将の「ユスティティア」と言った時の声。
ヴァンは何かこの時の声に異様なものを感じたのだ。それがなんなのかは、ヴァンには分からない。
今のエドワード准将にはその感じが消えている。
気のせいだったのだろうか。
「准将、この後、少し時間をいただけませんか?」
列車から出ようとするエドワード准将に、ラルはそう言った。
「...分かった」
エドワード准将が外に出ると同時に警官が中に入ってきた。
口髭をはやしたその警官は右手で敬礼をしながらラルに挨拶をし始めた。
「ただ今着きました、グリムシティ西地区警察庁のスーマンです。この度は..」
「うわぁぁぁ!!」
警官の話を誰かの叫び声でかき消された。
「なに!?」
「こ、この声は...」
聞き覚えのある声。
フェイロンだ。
「どうした!?」
叫び声を聞き、エドワード准将が戻ってきた。
フェイロンは犯人の一人に首を掴まれ、拳銃をこめかみに当てられている。
「フェイロン!!」
「捕まっちゃったヨ」
こんな時にもフェイロンはのん気なことを言っている。
「動くなよ!!少しでも動いたら…!!」
男は拳銃の引き金に指を入れる。
「あいつ...!何故動けるんだ!?」
ラルは、らしくない動揺を見せた。
「縄はキツく結ばれていたはずだ!何故...!」
エドワード准将もラルほどではないが動揺を見せている。
もちろん一番動揺しているのはヴァンだ。
警官は「動くな」と言われ、腰の拳銃に手をのばせずいる。
「動くなよ!このまま俺達を解……」
「………?」
なんだ?
突然、男は事切れたように止まった。目が定まっていない。
「なんだ…?」と、エドワード准将。
何だ?と思ったのは全員のようだ。口に出さなくとも、その空気がそれを物語っている。
カチッ…
引き金にかかる男の指が動いた。
「な..止め...!」
バキュゥン!
車内に響く銃声。
あまりの音の大きさと速さに、ヴァンはそれが銃声だと最初気付けなかった。
まるで時が止まったように誰も動かない。
その中、ゆっくりと動き始めた人物が一人。
ドサッ
「な...なに...?」
倒れたのは、拳銃を持った男だった。
「な...!」
ヴァンは言葉を失った。
「ラル!取り押さえるんだ!!」
「は!」
まさに鶴の一声。エドワード准将の声にラルはすぐさま反応し、犯人を取り押さえた。
だがその男にもう息がないのは誰が見ても明らかだ。その男は自分のこめかみに銃を当て、放ったのだから。
ヴァンは吐きそうになる。
死体を見るのはこれで二度目だが、そんな簡単に慣れるわけもない。
フェイロンは立ち尽くしていた。その頬には赤い血が付いている。多分、男の血だろう。
「...駄目です..!死んでいます...!」
ラルはそう言った。
「自殺か...!」とエドワード准将。
警官はいきなりの出来事で口が開いたままになっていた。
ヴァンはフェイロンのもとに寄った。
「フェ、フェイロン..け..怪我は...?」
「怪我はないヨ」
フェイロンは平然とそう答えた。しかし余裕があるわけではないように見える。だがその表情からは恐怖がうかがえるというわけでもなかった。
「自殺...そんな...馬鹿な...!」
ラルは何故か異様に取り乱しているようにヴァンは感じた。
そう感じたのはどうやらヴァンだけではないようだ。
「どうした?ラル?」
エドワード准将は聞いた。
「こいつが自殺するなんて...ましてや目覚めるなど...!」
「......!」
エドワード准将は何かを察知したようだったが、ヴァンにはよく分からない。
「『眼』を使ったのか?」
「...はい」
──眼……?
眼とはなんのことだろうか。ヴァンは理解できない。
「こいつは半日は眼が覚めないはずなんです...。なんなんだ...そういえばさっきも...」
ラルとエドワード准将は二人で深刻な顔をしている。
犯人が自殺したからとしかヴァンは思えなかったが、二人の不可解な単語に少し疑問を覚えた。
「さて、帰るネ」
「え?」
フェイロンは、突然口を開いたかと思ったらそんなことを言い出した。
「か..帰る?」
ヴァンは聞き返した。
「そいつ死んだネ」
「え?う、うん」
フェイロンの表情は落ち着いている。明るい感じはない。
「運命...」
「へ?」
「それがそいつの『運命』だたネ」
「ちょっ、フェイロン...!」
フェイロンはそう言って、車内を出ていった。
最後の横顔が、何故か笑っているように見えた。
chpter:8 大工業都市「グリムシティ」
〜to be continued...
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