本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[30]chapter:8-4


案の定だ。
ラルは改札口の前で舌打ちをした。
 
改札口の向こうでは人だかりができており、この周りも多数の人間が騒ぎをあげている。
ただ事ではない。
 
ラルは改札口を通り、人ごみをかき分けながら、というより無理やり間を押し進んだ。
不満顔を見せる奴もいたがラルは微塵も気にしなかった。
 
奥に進むにつれて男の騒ぎ声が聞こえる。しかし、何を発しているのかは分からなかった。
大分奥に来たが、人ごみは奥に進めば進むほど多くなっていく。
 
ラルはどいてくれるか?、と発っしながら進んだが皆、騒ぎで聞こえていないのか一向にどく気配はない。
ラルは仕方なく跳ぶことにした。
 
ラルは文字通り跳んだ。人だかりの頭の上を軽く。まるで紙飛行機が跳ぶような跳躍だ。
 
ラルは人だかりのちょうど先頭の部分にストンと着地した。
皆は唖然とする。
目の前、といっても20メートルは離れているが、男が駅長と思われる人物を人質にとっているのが見える。
 
ラルはすぐに頭で状況を整理した。
 
トレインジャックか。
犯行は一人か。
車内の乗客は。
多数だとして仲間は何人いるのか。
ヴァンは車内か、外か。
 
「誰も動くなよ!車内には仲間がいるんだ!少しでも変な真似したやつがいやがったら中のやつは皆殺し、そしてこいつもだ!」
男はナイフを駅長の首に突きつける。駅長は恐怖に怯え、頭は上へとそらした。
 
面倒だな。
 
 
 
皆はまた唖然とした。妙な静寂。ナイフを持った男はさっきまでざわついていた皆が、何故突然静かになったのか分からない。
「な、なんだ!?」
 
すると突然男の首に圧迫感がはしる。
「な゙!」
ナイフを持った右手を後ろにねじ上げられ、そのまま車内へと吹っ飛ぶ。
駅長は突然解放され地面へと落ち、男はそのまま車内で突っ伏した。
 
どうやら腕をひねられながら、襟を背後から引っ張られたらしい。
男はむせながら前を見た。なんと前には女がいる。しかも凄い力だ。押さえられた手がふりほどけない。
 
「な、なんだ!?てめグフッ!?」
男は見知らぬ女に首を抑えられる。
 
「貴様は誰だ?仲間は何人いる?何故犯行におよんだ?」
ラルは鋭い目で男を睨んだ。話させるために首をしめた手を少し緩める。
 
「へっ..だ、誰が教えるか...よ...」
「だろうな」
 
ラルはフッと笑ったかと思うと、今以上に目を鋭くさせた。
「な...なに...を..」
 
男は突然睡魔に襲われたかのように視点の定まらない目をした。
 
「もう一度聞く。お前は誰だ?」
「俺は、マーク=フィルダー」
 
男はまるで機械仕掛けの人形のようにラルの問いに答えた。
 
「仲間は何人だ?」
「俺以外には、4人」
「配置は?」
「先頭車両に1人、2番車両に2人、3番車両に1人」
 
ここは4番車両と3番車両の間だ。そしてこの列車は4両編成。
つまり、この向こう側にはまだ仲間が4人いるということだ。
 
「(やはり仲間がいたか。中の仲間にはバレないように迅速に行動したが...やはり少しハデにやりすぎたな...)」
 
ラルは続けた。
「犯行の目的は...」
「...?」 
 
男は途中で喋りを止めた。魚のように口をパクパクさせているが声が出ていない。
「おい、犯行の目的は?」
「犯行の目的は......分からない」
「分からない?」
 
犯行の目的が分からない。こいつは何を言っているんだ。
ラルは不可解な状況に戸惑いを見せた。
「このような状況」は初めてだったからだ。
 
――私の「眼」が、効かない?
 
違う。
ラルはそう考えた。
効いていないのならばこの男は、「教えない」と言うはずだ。
自分の行動に理由を持たない人間などいない。たとえどんな理由を持たずにした些細な行動でも人間は理由を見いだせる。
 
なのにこの男は「分からない」と言った。あとから理由もつけようとしない。
そんなこと、ありえない。
 
――いったい...これは...?
 
 
 
 
 
 
 
 
エドワードと名乗ったこの男。
年齢は40を超えているように見えるが、がたいは大きい。髪は茶髪の五分がり、オーバーコートを身にまとい、落ち着いた感じでそこにいるが何か異様なオーラを感じさせるところがある。
 
「多分他の車両にも一人ずつは仲間がいるだろう」とエドワード。
「じゃあすぐぶっ飛ばすネ」
「だからハデな行動はできないと言っているだろう。乗客に被害が及ぶ可能性のある行動はできない」
 
ヴァンはこのエドワードに何かを感じ取っていた。
この異様な感じ。機転のきく頭。この状況にも動揺一つ見せない精神。
 
これはまるで......
 
「んー......」
少年が地面に倒れている男の頭を指でつんつんしているのが目に入った。
 
「なに、やってるの?」
ヴァンはとりあえず聞いてみる。
「いやぁ、ホントに気絶してるのかと思っテ」
もう一人の男の方もペタペタとさわり始めた。
 
「うん!これはまちがいなく気絶..」
ゴン!
 
また少年はエドワードに殴られた。
「余計なことをするな!!」
 
少年は災難、いや、今日の盗みの罰と考えれば妥当なのかもしれない。
 
「いつつつ痛ー...」
少年は頭をおさえて痛がっている。あのでかい拳で殴られたらそうとう痛いだろう。
 
「みなさん安全のためじっとしていて下さい」
エドワードは皆にそう言った。
 
ガチャッ
「!」
1車両へと行くためのドアが突然開いた。
「なんだ?さっきの大声..な!?お前ら!!何してやがる!!」
 
どうやら犯人達の仲間らしい。男は手に持った銃を構えた。
乗客は動揺しざわめき出す。
 
「ちっ!さっきの騒ぎが聞こえたか!」
 
エドワードはその巨体からは考えられない俊敏な動きでその男との間合いを詰め男の腕を掴んだ。
「てっめ..!」
「ふん!」
今度はその巨体に似合う、豪快な動きで男を腕一本を掴んだまま後ろへと投げ飛ばした。
男の体は車内の天井スレスレに足がつきそうになるほど宙に浮き、弧を描いて舞う。
 
ドゴォン!
壮大な音ともに男は地面に叩きつけられた。
 
「うわぁ...」
あまりの光景にヴァンは口が開いたままだ。それは乗客も皆、同じだった。
 
男は完全に気絶している。
「くっそ...やむを得ず反撃したが今の音で...」
 
ガチャッ
「は!」
「!」
 
3両目へのドアがゆっくりと開いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
ラルが男の目に手をかざすと、突然その男は深い眠りについた。
死んだわけではないことが男の寝息で伺える。
 
「これで半日は起きないだろう...」
 
ラルは3両目のドアの横についた。
耳をあててみるが、特に音は聞こえない。
 
ラルはすぅっと息を吸うと、ドアを静かにそして迅速に開けた。
乗客の視線が一瞬でラルに集まる。乗客のほとんどが怯えているのが一瞬で分かった。
3両目奥の方には先ほど捕まえた男が話した通り仲間と思われる武装を施した男が一人いる。
もちろんこちらに気づいている。
 
「なんだ!てむ..」
 
男は何か発したのだろうか。
まあ、たいがいこの状況ど犯人が言うことは想像がつく。
 
男は一瞬のうちに頭から地べたに叩きつけられた。
乗客には何があったのか分からないだろう。
 
「...!...お前ら!!何してやがる!!...」
「ん?」
 
2両目とをつなぐドアの向こうから男の声がした。
 
「(ヤバイな...乗客が何かしたのか?)」
 
ラルがそう考えると、次は大きな音が聞こえた。
 
「なんだ?」
ラルはすぐにドアに体をつけた。
静かにドアノブに手をそえる。
 
「みなさん、じっとしていてください。私は軍の者です」
乗客はラルの声に歓喜したのかドワッとなりかけたがすぐにラルが手で制止した。
 
「よし...」
 
ガチャッ、という音をたて、ラルは静かにドアを開けた。
 
「は!」
ラルはバン!とドアをぶち開け2両目へと侵入した。
 
すぐ目の前には大男が身構えている。
「くっ!」
ラルはすぐに身構えた。
「...あれ?」
 
様子がおかしい。
ラルの足下には一人男が倒れていた。
目の前の大男の足下には二人。
その横には、
 
「ヴァ..ヴァンくん?」
「ラ..ラルさん!」
ヴァンは声を上げてラルのもとへ寄った。
が、ラルはするりとそれを避けた。
 
ヴァンはあれ?、とラルを見る。
ラルは口を閉じたまま固まっていた。
 
「あ..あなたは...」
「..ラル?お前、ラル=A=ターナーか?」
「え?」
 
なんとエドワードがラルの名前を呼んだ。
「(知り合い...?)」
 
ラルは突然右手を額の上に当てて敬礼をした。
 
「お久しぶりです!エドワード准将!」
「え!?」

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