本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[28]chapter:8-2


 
――とにかく秘密主義の意味も含めて、その剣を一般人に見せてはならない。分かったか?――
 
 
「や..ば.い...!」
 
ヴァンは考えるより先に体が動き、剣を盗んだ少年を追いかけた。
「ぼ、坊主...!」
背後にでおじさんの声が聞こえたような気がしたが今はそんなこと気にしてる場合ではない。
 
――剣が...剣が...!
 
ヴァンは人混みをかき分けて少年を追う。
「うわ!なんだ!」
「いてぇな小僧!」
「すみません!すみません!」
 
ヴァンは誤りながらもなんとか少年の背後に近づいた。
「か、返せ!僕の剣!」
 
少年は「ん?」という感じで後ろを見る。
「あレ?案外速いネ」
 
少年はアジア系の顔で、なまりのある口調でヴァンに喋りかける。
「返して!ハァ、ハァ..大切なものなんだ!」
「是(シー)!大切そうにしてたからこれとったヨ!」
「こ..の...!」
 
ヴァンは捕まえるために手を伸ばす。
「おっと!」
少年は捕まる寸前のところで横に跳んでかわした。
 
「やるネ」
「くっそー...」
少年に疲れている様子は一切見えない。ヴァンは二日間ラルと特訓したとはいえ、体力はまだそれほど高くない。
ヴァンは息を荒げる。
 
「どうしタ?もう終わりカ?」
「ハァ..ハァ...くっ!」
 
また追いかけ合いが始まる。
少年は人混みをものともせずスイスイと進んでいく。
 
「な..なんて運動神経なんだよ...」
ヴァンも小柄な体系を活かして人混みをかき分ける。
 
すると突然人混みがなくなり大きな広場に出た。
 
「こ、ここは...?」
奥には柵で分けられた入り口が見える。少年はヒョイと柵を飛び越え向こう側へと跳んだ。
「ヤバい..!こんなことしてる場合じゃない...!」
ヴァンは次いでその入り口を通ろうとした。
「コラ!切符も買わずに汽車に乗る気かい!?」
 
突然紺色の服を来たおじさんにヴァンは怒鳴られ思わず足を止める。
「き、汽車?」
「ここは『西グリムシティ駅』だよ。ここを通りたいなら切符を買いな」
そう言っておじさんはそばにある小屋を指差す。
「そんなこと言っても...」
 
ピー!
 
突然入り口の向こう側から音が鳴った。
「お、汽車がくるな」とおじさん。
「汽車...」
向こう側を見ると少年が笑みを浮かべて手を振っている。
ヴァンは思わず入り口を走り抜けてしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
「あっ...」
 
ラルは用事の途中であることを思い出した。
 
「ヴァンくんに汽車の切符のことを説明するの忘れてたな...汽車のことよく知らないみたいだったし..お金も持たしてないな...」
 
ラルは少し立ち止まってどうしようか考えようとしたが、すぐ考えを変えた。
 
「ま、大丈夫だろう」
 
場所は教えてあるし、駅長もいるだろうから心配ないだろうとラルはふんだ。
 
入り組んだ道を少し歩き、ある家の前でラルは歩みを止めた。
 
「確かここのはずだが...」
コンコンと二回ドアをノックをしてみる。
ドアからは返事もなければ人のいる気配もなかった。
 
「留守...か?」
「おや?見ない顔だねぇ」
買い物袋を持った40代くらいに見えるおばさんがラルに話しかけてきた。
ラルはどうも、と一礼をする。
「エドワードさんの知り合いかい?」
「エドワード殿をご存知なのですか?」
「そりゃもう。というよりここら辺でエドワードさんを知らない人はいないよ」
 
ラルは初耳だった。
「旅の途中でこの街に寄りまして。ところでエドワード殿は...」
「タイミングが悪かったねぇ、エドワードさんなら1週間程前から旅行に行ってるよ。いつ戻ってくるかねぇ..急ぎかい?」
「はい。少し挨拶をしにきただけですので。どうもありがとうございます。私はこれで...」
 
そう言ってラルはその場を立ち去ろうとした。
「ちょっとあんた、ここら辺の一人歩きには気をつけな」
「?...」
「最近ここら辺で若い女性を狙った殺人事件が起こってるんだよ。まったく信じられないね!
その犯行方法が酷くてね...人のすることじゃないよ...」
「犯行方法...?」
 
おばさんは小さな声で話すためにラルの耳元に近づいた。
しかし身長が届かないのでラルは仕方なく腰を落とした。
「それがねぇ...殺されて発見された女はみんな..足がなくなってたんだよ...」
「足...」
「おっかないねぇ..あんたも若いし美人だから気をつけなよ」
「ご婦人もまだまだお綺麗なんですから気をつけてください」
「アハハハハ!こんな老獪(ろうかい)を狙うやつがいるかい!」
 
大声で笑うおばさんに手をふり、ラルはその場を後にした。
 
「殺人事件か...ヴァンくんのことも少し気になるが...まぁこんな短期間に事件に巻き込まれるわけが...」
 
 
 
 
 
 
 
 
「こら坊主!!」
「すみませんおじさん!急いでるんです!」
「急いでるって...汽車はまだ発車しねぇよ...」
 
ヴァンは少年の前で叫んだ。
「さぁ!返してくれ!!それがないと困るんだ!!」
 
――色んな意味で…!
 
ヴァンの必死な声をよそに少年はバカにするようにニカニカしている。
「これがそんなに大事カイ?」
 
ここにきてやっと少年を凝視できたヴァンは驚いた。
この少年は自分よりも幼く見える。多分10才いくかいかないか位だろう。
でも今はそんなこと関係ない。
 
「さぁ..返せ!!」
ピー!!
ヴァンを飛びつこうと構えた瞬間どこからか耳をつんざくような鋭い音がした。
 
「な、なんだ!?」
「汽車が来たネ」
 
少年が言った通り、谷の向こうから黒くてデカい何かがこちらに向かってきている。
「あれが...汽車..?」
 
汽車は先頭の頭の部分に煙突のようなものがあり、そこからしきりに煙を出しているのが見える。
 
「こらぁ!無賃乗車する気かぁ!」
向こうから先ほどの紺色の服を着たおじさんが叫んでくる。
「あ、やっば...!」
「お先!」
「あ!」
 
少年は隙をついて駆け出した。ヴァンは一足遅れてそれを追いかける。
 
汽車はもうホームの方へ入ってきていた。次の乗客と思われる人達が何人か並んでいる。
「ま、待てぇ!」
 
少年はニッと笑った。
「ほい!」
「な!?」
なんと少年はホームに入ってきている途中の汽車に飛び乗った。止まろうとしているとはいえ、まだ汽車にはスピードがある。
とても人間のなせる業じゃない。
……いや、ラルならやれるかもしれない。
 
「ウソだろぉ...」
ヴァンはとてもじゃないが汽車に飛び乗ることはできない。
 
「ハァ..ハァ...お前ぇ...ハァ...無賃はぁ〜...」
後ろから汗だくで疲労困憊したおじさんがきた。
どうやら運動は得意じゃないらしい。
 
「げ...汽車がもう着くじゃねぇか...たっく..お前!そこにいろよ!」
おじさんはヴァンを指差してそう言った。
 
「は..早く止まらないかなぁ...!」
ヴァンは憤怒した汗だくのおじさんよりも盗まれた剣が気が気でないならない。
 
「次のご乗客の皆様ぁ、西グリムシティ駅終着のぉ汽車が停車いたしまぁす、大変危険ですのでぇ、線の向こう側でお待ちくださぁい」
おじさんはなんとか声を張り上げて、業務をまっとうしているようだ。
ほとんど声になってないが、手に持った拡声器のおかげでなんとか聞こえている。
おじさんはふぅ、と息を吐き、袖で顔の汗を拭った。
 
長い列を繋ぐ汽車はキィーという音をたてながら少しずつ止まっていく。
「早く...!早く...!」
 
 
プシュー...
 
ついに汽車は止まった。ガゴン!という音を立てて車両のドアが開く。
「開いた!」
「ええー、グリムシティー、グリムシティー...って、坊主こらぁ!」
ヴァンは気にせず車両に飛び乗った。
 
「くそ!ガキが...!まぁいい...どうせ乗ってるんだしあとでとっつかまえれば...
ええ、次のご乗客の皆様ぁ、優先順位でぇ、まずご乗車しているお客様からお下りさせていただきますぅ、お客様が全員お下りになられるまでぇ...しばらくぅ...?」
 
おじさん、いやここで改めて言い直させていただくが、駅長は次の乗客達が何かざわめいていることに気がついた。
 
「なんだ...?」
しかしすぐに駅長も乗客が何にざわめいているのか気づいた。
汽車から誰も下りてこないのだ。
誰も乗ってない?
いや、そんなことはありえない。
この汽車はこの国の首都、「トゥーワイズ」とを繋ぐこの街の唯一のものだ。
その汽車に誰も乗ってないはずがない。
 
「い..いったい...」
 
 
 
 
 
 
 
 
ヴァンは汽車に乗り込むと周りをグルリと見回した。
「静かだな......あ!」
 
奥のドアから盗まれた剣がくるまれた布が見えた。
 
「見ぃつけたぁ...!」
ヴァンは駆け出し、思い切りドアを開けた。
 
バン!
「見つけたぞ!さぁ返すんだ!僕から盗んだ..剣...を......」
 
辺りはシーンとしてる。目の前には大柄な男に刃物を首に当てられたさっきの少年がいた。
 
「あ...れ...?」
カチャッ...
「え?」
 
ヴァンは後頭部に何か固いものを当てられた。
「なんだ?てめぇ...?」
 
後ろをゆっくりと見ると、そこには銃を構える背の高い男がいた。
 
「こ..これは...」
「この汽車、ハイジャックされてたみたいヨ」
 
少年は首に刃物を当てられているにも関わらず、ニカッとそう言った。

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