第39章


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「覚醒が不完全であったか」
 ひそりと呟くと、怪物は強張らせていた背から伸びる黒い触手達の力を解き、赤く鋭い先端をアブソルから逸らした。代わりに、僅かながら哀れみが籠もった目で、向けられている直向な視線を見返す。
 怪物の目を見て、この怪物はそんなに悪い怪物じゃないのかもしれない。
――顔は相変わらず怖いけれど、とアブソルは思った。だって、何だか悲しそうな目をしてる。きっと何か理由があるんだ。
「あの、怪物さんの名前は?」

 怪物の触手がぴくりと反応する。
「……我が名はギラティナ。世界の裏、反転した世界の主」
 ゆっくりとギラティナは口を開き、幾らか冷たさを和らげさせた調子で答えた。
腕輪は恐らく向こうの方からやってくる。そのしばしの間、この哀れな幼い魂と語らうのもよいだろう。戯れとして、最期の、せめてもの慰めとして。

「お前の問いに答えよう。ここは世界の表裏の狭間、戻りの洞窟。お前の仲間達は無事だ」
 アブソルはほっとする。やっぱり、あまり悪いポケモンじゃないみたいだ。何より、みんなが無事でよかった。
少し落ち着いたところで、アブソルは自分の今いる場所を首の動く範囲で興味深そうに見回してみる。すごく大きい部屋だけど、暗くてじめじめしてて、まるでお墓の中みたいだ。


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